「う、ううう。」
ニングがまぶたをひくつかせながら、半開きになった口元から小さく息を吐いた。
目覚めたようで、瞳をきょろきょろさせながら不思議そうな顔をしていた。

まだすっかり催眠剤が切れたわけではないのだろう。
少し頭がはっきりするまで、ニングはどうしてここにいるのかわからないようだ。

だがユークとタイートの顔を見ると飛び起きた。

「あなたたち!ちょっとさっきのやつらは?」

「大丈夫よ。あいつらは今動けないから。」

「そう。」

「なにがあったの?」

「何って?」

「車に乗せられてから、あいつたちから何か聞かれた?」

「わからないわ。車に乗せられてすぐに変なものを腕に押しつけられたらすごく眠くなって。後は覚えてない。」

「そう。あいつら何も言ってなかった?」

「ううん。何も。あ、ちょっと待って。確か・・・」

「何?」

「眠る前に女のほうが腕時計に向かってしゃべってたのよ。」

「ああ。通信機ね。何か聞いた?」

「眠りに落ちる一瞬だけど、女が名前を言ったのが聞こえたの。」

「何て?」

「ルゥ-・・・そうそう、相手の事をルゥ-シュ様って言ってた。」

「何だって?」

「だからルゥ-シュよ。」

「そんなバカな・・・」


なぜビスクールがルゥ-シュの事を知っているのか・・・
そしてルゥ-シュとビスクールの間に何があるのか・・・

タイートにはまったくわからなかった。

ただルゥ-シュという名前が、今ここに出て来た事はタイートには大きな衝撃だった。

可愛いルゥ-シュ。
優しいルゥ-シュ。
僕の・・・
僕が愛した・・・いや今もそしてこれからも愛するルゥ-シュ。
たとえ2度と会えなくてもこれから未来永劫、愛しつづけるルゥ-シュ。


その時ふとタイートは思い出した。
徴兵のためタイートが防衛学校に入る事が決まり、それをルゥーシュに伝えた時のこと。

ルゥ-シュはとても悲しく、苦しそうな顔をしていた。
涙を流しながらタイートに言った。

「どうして?どうして戦争をしなきゃいけないの?」

「だってこのままじゃエルンゼはビスクールに侵略されて、エルンゼのみんなはどんな目に遭うか・・・」

「でも争いは傷を残すだけじゃないの。」

「そうかもしれないけどこの国や人々がひどい目に遭うのを黙って見ている事なんか出来ないよ。黙っていたら町の人も両親もルゥ-も殺されるかもしれないんだ。それは絶対にさせない。ルゥ-は心配しないで待っていて。」

「でも・・・悲しい。」

「どうして?」

「・・・」


それ以上ルゥ-シュは何も言わなかった。
しかし今ビスクールの戦士からルゥ-シュの名前が出た事で、タイートはこの時のルゥ-シュのなんとも悲しげというより、苦しげな表情を思い出したのだった。

あの時ルゥ-シュは何かもっと言いたかったのだろうか?
そしてルゥ-シュは何がそんなに悲しかったのだろう・・・

そして今ニングの口から思いもよらない名前が出た事にタイートは混乱していた。

可憐で素直で可愛いルゥ-シュ。
控えめでそして少しいつも不安そうだったルゥ-シュ。

そのルゥ-シュがビスクールにいて、しかもニングを誘拐した連中を指揮しているとは・・・
姿を消してからいったい何がルゥ-シュに起きたのだろう。

いや・・・
あのタイートの知っているルゥ-シュが,戦いに身を投じることがあるだろうか?


あんなに戦争を嫌っていたルゥ-シュが自ら嫌いな場所に行くとは思えなかった。
ルゥ-シュという名前の別人か、誰かがルゥ-シュの名前をかたっているのではないだろうか・・・


タイートの思いは川の窪みにある,溜まりを渦巻く激しい水のようにぐるぐると廻っていた。




                  つづく