穏やかにゆっくりと進む時間。
見渡す限り、視界を遮るビルなどはなく、あるのは青々とした木々、広大な田園、瓦屋根の古ぼけた民家。
まるで世の中から取り残されているような錯覚に陥るそんな田舎町。
だけど私はこの生まれ育った町が大好きだった。
楽しいことも、辛いことも、ちょっと切ないことも全部詰まったこの町が。
私は地元の高校を卒業して、実家から電車で通える範囲の大学へ通った。
就職もこの町から離れる気は最初から無く、小さな町役場で働くことを決めていた。
成績はいつも悪い方では無かったので、両親や先生達からはいろいろと言われた。
だけど私は意にも介さず、我が道を進んだのだった。
働き始めて何年たっただろうか。
そんなことすら忘れたある日、私は数駅離れた所にある友人の家へと向かっていた。
最寄り駅へと向かいながらふと懐かしい記憶が甦る。
そういえば・・・これから向かう友人の家はあの人の家と同じ町だったなぁ。
高校の時、二つ上の先輩に恋をした。
ちょうど今日みたいに暑い夏の日に駅で告白されたんだ。
嬉しかったなぁ。
好きだったなぁ。
ふふっ。
そんな昔のことを突然思い出した自分があまりに滑稽で思わず笑みがこぼれていた。
駅に着き、ローカル線のホームへと降り立つ。
いつものことだが、ホーム内は閑散としており、全くと言っていいほど人がいなかった。
いや、一人いた。
男性が一人、ホームに設置してあるベンチに腰掛けていた。
珍しいなと思いながら手近にあったベンチに座ろうとしたが、何かその男性の雰囲気にわずかな懐かしさを感じた私は思い切って彼と同じベンチに座ることにした。
眠っているのだろうか。彼の目は固く閉ざされている。
さりげなく見た男性の顔はどこかあの人に似ているような気がした。
まさか・・・ね。
遠方の大学へと進学した彼との関係はいつしか自然消滅してしまった。
お互い大好きだった・・・けど若かった。
大好きな人を繋ぎ止めておく手段を知らなかったんだ。
切ない記憶に思いを馳せていたら、思わず見入ってしまっていた男性の瞼が僅かに動いた。
慌てて視線を正面に戻す。
なんだろう。
少し胸がドキドキする。
久々の感覚になんだか恥ずかしくなり、顔まで紅潮しているように思えた。
人気のない静かなホームに照り付ける太陽。
うだるような暑さの中、時間の経過がやけに遅く感じられ、不思議な感覚に包まれていた。
もう少し・・・こうしていたいな。
そう思っていたら電車がホームへと入ってきてしまった。
私は立ち上がり扉に向かって歩きだす。
彼は・・・座ったまま。
電車を待っていたわけではないのだろうか。乗車する気配がない。
扉の一歩手前。不意に私は振り反った。
もう一度彼の顔が見たかった。
振り向いた私の視線の先に彼の視線が置かれていた。
絡み合う視線。
あぁ・・・きっと彼だ。
何の根拠も無かったが、そう強く思った。
自然と微笑みが浮かんでいた。
電車に乗り込むとすぐに発車し、思い出の駅はどんどん遠ざかっていく。
車内はガラガラで座席はあいていたが、私は座らずに扉にもたれ流れる風景を眺めた。
本当に彼だったとしたら・・・奇跡よね。
私はくすっと笑みをこぼすと再び少し切ない記憶を探しに行く為、そっと目を閉じた。
見渡す限り、視界を遮るビルなどはなく、あるのは青々とした木々、広大な田園、瓦屋根の古ぼけた民家。
まるで世の中から取り残されているような錯覚に陥るそんな田舎町。
だけど私はこの生まれ育った町が大好きだった。
楽しいことも、辛いことも、ちょっと切ないことも全部詰まったこの町が。
私は地元の高校を卒業して、実家から電車で通える範囲の大学へ通った。
就職もこの町から離れる気は最初から無く、小さな町役場で働くことを決めていた。
成績はいつも悪い方では無かったので、両親や先生達からはいろいろと言われた。
だけど私は意にも介さず、我が道を進んだのだった。
働き始めて何年たっただろうか。
そんなことすら忘れたある日、私は数駅離れた所にある友人の家へと向かっていた。
最寄り駅へと向かいながらふと懐かしい記憶が甦る。
そういえば・・・これから向かう友人の家はあの人の家と同じ町だったなぁ。
高校の時、二つ上の先輩に恋をした。
ちょうど今日みたいに暑い夏の日に駅で告白されたんだ。
嬉しかったなぁ。
好きだったなぁ。
ふふっ。
そんな昔のことを突然思い出した自分があまりに滑稽で思わず笑みがこぼれていた。
駅に着き、ローカル線のホームへと降り立つ。
いつものことだが、ホーム内は閑散としており、全くと言っていいほど人がいなかった。
いや、一人いた。
男性が一人、ホームに設置してあるベンチに腰掛けていた。
珍しいなと思いながら手近にあったベンチに座ろうとしたが、何かその男性の雰囲気にわずかな懐かしさを感じた私は思い切って彼と同じベンチに座ることにした。
眠っているのだろうか。彼の目は固く閉ざされている。
さりげなく見た男性の顔はどこかあの人に似ているような気がした。
まさか・・・ね。
遠方の大学へと進学した彼との関係はいつしか自然消滅してしまった。
お互い大好きだった・・・けど若かった。
大好きな人を繋ぎ止めておく手段を知らなかったんだ。
切ない記憶に思いを馳せていたら、思わず見入ってしまっていた男性の瞼が僅かに動いた。
慌てて視線を正面に戻す。
なんだろう。
少し胸がドキドキする。
久々の感覚になんだか恥ずかしくなり、顔まで紅潮しているように思えた。
人気のない静かなホームに照り付ける太陽。
うだるような暑さの中、時間の経過がやけに遅く感じられ、不思議な感覚に包まれていた。
もう少し・・・こうしていたいな。
そう思っていたら電車がホームへと入ってきてしまった。
私は立ち上がり扉に向かって歩きだす。
彼は・・・座ったまま。
電車を待っていたわけではないのだろうか。乗車する気配がない。
扉の一歩手前。不意に私は振り反った。
もう一度彼の顔が見たかった。
振り向いた私の視線の先に彼の視線が置かれていた。
絡み合う視線。
あぁ・・・きっと彼だ。
何の根拠も無かったが、そう強く思った。
自然と微笑みが浮かんでいた。
電車に乗り込むとすぐに発車し、思い出の駅はどんどん遠ざかっていく。
車内はガラガラで座席はあいていたが、私は座らずに扉にもたれ流れる風景を眺めた。
本当に彼だったとしたら・・・奇跡よね。
私はくすっと笑みをこぼすと再び少し切ない記憶を探しに行く為、そっと目を閉じた。