春には美しい桜が咲き誇る並木道。
僕が一番好きな場所。
君と毎日のように歩いていた道を今日も僕は歩いている。
白い花はすでに散り尽くしており、青々とした葉が季節の移り変わりを実感させた。
近くを流れる小川のせせらぎに耳を澄ませ、頬を撫でる風の心地よさに瞼を閉じる。
懐かしい思い出が次々と滲み、僕の目からは涙が溢れた。
顔を真っ赤に染めながら君への想いを不器用に伝えたね。
平凡だけど穏やかで暖かな時間を過ごしたね。
辛い時もあったけど二人で支え合って乗り越えたよね。
些細な事で喧嘩した夜は震える君の肩を抱いて「ごめんね」って囁いた。
君を失うかもしれないと知った時、僕は強がることも我慢することもせず声をだして泣いた。
一番辛いのは君だったのにね。
君は笑って「大丈夫」って僕の背中をさすってくれた。
その日を迎えるまで君は気丈に僕を支えてくれた。
僕は少しでも君の支えになっていただろうか。
僕がもっとしっかりしていれば、君も大声で泣きじゃくることができたのに。
白い花が散った蒸し暑い日、君は空へと昇って行った。
月は君を偲ぶようにその身を雲に隠していた。
大粒の涙と嗚咽が止む事の無かったその夜。
僕が唯一記憶から消したい日。
でも君の最期の言葉がその日の記憶を僕の胸に焼きつけた。
忘れられない言葉。
忘れたくない言葉。
「愛してる」
瞼を開くと舞い散る白い花びらと君の姿が瞳に映っている気がした。
吹き抜けた一陣の風に目を細めながら僕は応えた。
「愛してる」
昇りゆく風に言葉を託し、僕は祈った。
君のいる空に届きますように・・・