私が初めて恋をした人は、すこし離れた場所に住む、5つ年上の人でした。






ケータイ 3




出会い系に登録して、たくさんのメールが来るようになってしばらく。

ある人のメールが目にとまった。



「彼女と別れてさみしい」



って書いてあった。


いつもなら、とくに気に留めることはないのにその時はすごく気になって、やり取りをするようになりました。


彼の名前は「進之介」

当時21歳で大学生だった。



私はお兄ちゃんができたみたいでうれしくって、「しんちゃん」って呼んで慕っていました。


毎日メールして、いろんな話をした。



学校に行かずに家にいる私の唯一の友達だったし、恋愛感情なのかわからないままどんどん惹かれていった。



そんなとき、彼のほうから「電話してみない?」と言われて、番号を教えました。





どうしよう?

あったこともない人だし、番号教えてって言われたから教えてしまったけど…


本当は知らないひと…だから、・…でも、すこし話してみるだけだし…





教えてしまった後で、悩んで、いざ電話がかかってきても数十秒固まっていました。



けれど、彼の声が聞いてみたくて、メールのやり取りもしているし変な人ではないと思うし…



そう決心して、私は通話ボタンを押した。








「あっ、でた。はじめまして。誰かわかる?」




関西弁なまりの、少し低い声。

彼は大阪出身って言っていたから、うん、本人だよね…




「は、はい。あの、杏です… しんちゃん?ですか…? 」



心臓が飛び出てしまいそうなくらいドキドキして、声とか絶対普段じゃ出ないくらいぶりっこしていたし、最後はもう聞こえないくらいに小さくなっていたに違いない!


でも、心地よい低音と優しい喋り方に私は、早くもふわふわしていて幸せだった。





「なんで、敬語?いつも通りでええよ」



あはは、、、


そりゃ敬語にもなります。

もともと人見知りしてしまうタイプだったし、ケータイを持ってから誰かと電話したのなんて数えるほどだったから。



お気に入りの真っ赤なケータイを握っている手が汗ばんでいるのがわかった。




、うん、そうだね。気をつけます。」




誰も家にいない時間だったけど、誰かに聞かれてるんじゃないか、って不安なのか

それとも、誰かと話していることでなのか…



私は本当に ドキドキしていた。


不思議なくらい。





でもそれは、恋をしていたんだと思う。




生まれて初めて、何もできない、可愛くもない私に興味を持ってくれた たった一人の人に。






私は、恋をしていたんだと思う。




Sub:無題

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はじめまして。

よかったら、俺とメールしない










たぶん、きっとはじめはそんなメールだったんだと思います。







ケータイ 2







私は、何十件とくるメールに戸惑いながらもたくさんの人が、私をみているんだと思うとうれしくなった。


私には、こんなに友達がいるんだ、って。




単純にメールしようって人もいれば、Hしようって言う人もいて、そういう体験をしたこともない私には刺激が強かったけれど

いろいろな人とのやりとりは、楽しかった。



出会い系って、もっとこわいものだと思っていたのに、全然そんなことはありませんでした。


そもそも、会う目的ではなく、ただメールのやり取りをしていただけだからこわい思いをせずに済んだのかもしれませんが…




でも、あるとき 一人の人のメールが私のすべての人生を狂わせました。







しんちゃん、覚えていますか?


私のこと。



私は覚えているよ。



許せないんだもん。









これまでの話はコチラから→「さいしょのはなし




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私は、高校生でした。

いろいろな出会いがあるし、別れもあったし、みんなが思春期で揺れていた。


当時は、「出会い系」がとても流行っていて事件も多かった。


私は、携帯電話を持っていなかったのですが、母からの申し出でケータイを持つことにしました。


真新しいものばかりで、着うたをダウンロードしたりいろんなサイトを覗いてみたりしていた。



でも、学校にはいけなかったから、電話帳は増えませんでした。



そんな日々が続いていたある日、ふと、ほんの出来心で私は”出会い系サイト”をのぞいてしまったのです。





そこは、無料で登録のできるサイトでいくつかの簡単な項目にこたえるだけで登録されてしまう。




「別に…覗いてみるだけだし」




ってホントに軽い気持ちで、登録。

当然18歳以下の登録はNGなので、年齢を18と偽って。




なんて書いていたのかは忘れてしまったのだけど…


きっと目いっぱい盛った内容で、書いたのでしょうね・・・









すぐにケータイがなって、メールが来た。






すべてのことが 片付いたのは 夏。


もう少しで、期末テストが終わり 私は夏休みに入る。



そんな時期。


大切なクロエ(※楽器)を抱きしめて 毎日 部活に励んでいた。



私の学校は共学で、どちらかというと男子生徒が多かった。


もともと、目立つタイプではなかったのですぐに友達ができたわけではないけれど

徐々にいろいろな人と話したり、関わったりして友達ができた。




学校は、楽しかった。


友達もいる。

好きな部活もある。


でも、どうしてだろう。



家では、私に無関心な母と姉との暮らし。




もう泣くことはなかったけど、産まれてきちゃいけなかったのかな って


毎日思っていた。








そんなある日、それは唐突に始まった。


仲のいいと思っていた友達からの、いじめ。







小学校以来だった。



集団での無視。

物の紛失。


言いがかりをつけられて、殴られたこともあった。



私は、学校までもがこわくなって 不登校児になった。



部活もやめて、楽器に触ることもなくなった。




何よりも大好きだった 私のクロエ。





人が 信じられなかった。


「お父さんが 自殺した」



確かにその人はそういった。


意味がわからなくて、何を言ってるんだろうって気分だった。




ふと、家を出てから荷物を取りに一度だけ戻ったマンションで父と遭遇した時のことを思い出した。



帰ろうとしたとき、初めて父に抱きしめられて



ごめんね



って言われた。

お父さん、泣いてた。



高校、合格おめでとう



とも、言っていた。

何度も



ごめんね



だけを繰り返して。

絶対に許せないと思っていたのに、許してもいいと思えた。


たった一人のお父さんだから、って 素直に思えた。




それなのに お父さんが 死んだ って聞いて  私は動揺した。




「今の電話何?」


って聞いたお姉ちゃんに、真実を告げようとして 涙が止まらなかった


「パパが、自殺したって」


お姉ちゃんは、複雑そうな顔をして手で顔を覆っていた。

肩がふるえていたから、泣いていたのかな。



それでも、ケータイを取り出し、気丈に振舞っていた。

誰かに連絡を取った姉は



「杏、でかけるよ」



と言って、私を連れ家を出た。








病院には、すでにいろんな人がいて お母さんもいた。



「パパは!?」


お姉ちゃんが、泣きながら聞いていた。

私は、泣かずになぜか冷静だった。


祖父母は、おろおろと、自分の息子の様子を見ていた。


叔父さんや叔母さんも、ただ冷静に見つめていた。




たくさん機械がある 集中治療室で パパは眠っていた。



いろんな人が近寄っている中で 私は近寄れなかった。






こわかった








いつまた、あの人が起き上がって私たちに暴力をふるうだろう と 思ったの。



こんな状況なのに そう思ったの。


ママがパパの近くにいるのが怖くて、どうしよう護らなきゃって。



そんなことを思った。











高校一年の春。

私は、これから訪れる様々な夢や希望に心躍らせ

未来への希望に満ちていた。


高校一年の春。


それでも、パパは逝った。



さようならも、言えなかった。



最後に、私は手を握ったのかも   覚えていない。