初めて"彼"にあった日、知ってはいけないことを知ってしまったような気がする。
初めまして、なんてよく口から出たものだ。
一瞬言葉に詰まり、冷たい汗が背中を流れていった感覚はいまだに忘れられない。
アタシは"この顔"を見たことがある。
この"人の世"ではなく、故郷の地獄で。
あの子を見たのは何年前のことだっただろうか。
ここに来る亡者の中でもとても若く、儚げな「女の子」だったため鮮明に覚えている。
貴方のような子がなんでこんなところに、と思わず聞いてしまったことも覚えている。
そうしてあの子は
「人を殺しちゃったんだ」
そういって悲しく笑い、地獄に繋がる道を一人で歩いて行った。
「奈羅花ちゃん、私とましろんに隠してること、ない?」
定期的に行っている同期会で、ふいに夏芽に問いかけられた。
「ううん、なんにもないよ?」
「えぇ~?本当にそうかなあ。たまに奈羅花ちゃん、何か考え込んでぼーっとしてるからさ」
むぅ~と、腕を組みながら夏芽が納得がいかないといった顔で腕を組む。
「奈羅花ちゃん、さてはお菓子の食べ過ぎで体重が増えたんだね!?」
からからと笑って私をいじってくるのはましろの悪癖だと思っている。
コイツ、人の気も知らないで。
「食べてません~!!ちょっと考え事してただけです~!!」
アタシはこの空間が好きだ。
夏芽のことも、ましろのことも、大好きだ。
同期だからということもある、しかしそれ以上に私はこの二人の人となりがたまらなく愛おしいのだ。
夏芽の少し抜けているようで根元がしっかりしているお姉さんのようなところも。
ましろの何も考えていないようでアタシたちのことを考えて行動しているところも。
二人の優しさがあって今の「私」があるのだ。
この居心地のいい空間を壊したくない。
だったら、アタシだけのうちに留めてしまえばいいのだ、と。
ずっとそう思ってきた。
ずっと、そう思ってきたのだ。
「そういえばさ、奈羅花ちゃん。地獄ってどういうとこなの?」
「え~?本当に何もないところだよ?」
話題は二転三転し、みんなの地元の話で盛り上がっていた。
「ほとんどの場所は草も木もない荒地だし、空はいつも曇ってるし、一年中ムシムシしてるし」
「やっぱりおとぎ話で出てくる地獄の様子と何にも変わらないんだねえ」
「うん、いる人も鬼か罪人しかいないから仕事中はなにも楽しいことないしね」
ここまで言って、アタシはアタシ自身が軽率だったことを後悔した。
気を付けていたつもりだったが、どこか気が緩んでしまっていたのかもしれない。
「ねえ、奈羅花ちゃん」
ましろの口元は笑っているが、目元は笑っていない。
「罪人ってさ・・・」
やめろ。
やめてくれ。
「どんな人たちがいるの?」
聞きたくない。
きっと"彼"は確信している。
「例えばさ・・・」
アタシはこの先に、彼が何を言おうとしているのか予想がついている。
席を立って話題をそらしたかった。
それでも私は席を立つことができなかった。
身体が動かないのだ。
頭の中では拒否していても、心の奥底の自分が聞かなきゃいけないと言っているようだった。
「人殺し、とか?」