エフェクターを作り始めた当初から、ずっとおれはFuzz Faceにこだわって沢山作ってきた。理由としては回路が簡単であること、トランジスタの特性で音色が決まるユニークな点などいろいろあるが、なによりギター側のボリューム操作で鈴なりサウンドからモーモー歪みサウンドまでコントロールできることがとても魅力的だと思う。
おれは今までベースしか弾いてこなかったし、ほとんどのベースプレイヤーがおそらくそうであるように、ベース本体のボリュームは常にフルで弾いている。少なくとも演奏中にボリュームをコチャコチャ操作するようなことはほぼしていない。なぜかというと、おれがメインで使用しているベースは2ボリュームのジャズベースであり、音色を変える目的ならまだしも、音量調整のために2つのボリュームポットを動かすのは単純に難しいからだ。また、音色や音量を変えたいならエフェクターを踏んだほうが良い。
そんな感じで考えていたが、自分でエフェクターを作るようになり、さらに最近はギターも弾くようになってきたので、じゃあ簡単そうなFuzz Faceでも作るかな、というのがきっかけだった(全然簡単じゃなかったけど)。そして、Fuzzつまみを全開にしてもギターのボリュームを絞って得られる鈴なりサウンドに感銘を受け(?)、これをベースにも使えないもんかなぁと思ったのが、今回の動機である。
実はベース用Fuzz Faceを計画したのは今回が初めてではない。このブログにも前に記事を書いたが、過去にベース用のFuzz Faceを作ろうと色々試行錯誤していた。しかしながら、当時はバイアス電圧すらよくわからず適当なモディファイをしたにすぎず、結局まったく使い物にならなかった。今回はちゃんとコンセプトを決めてやってみた。
まずベースの鈴なりサウンドを得るため、インプットゲインを調整できること。これはベース本体のボリュームをフルにしたまま、鈴鳴りサウンドを得るためだ。それから可能な限りノイズを消すこと。あとはベースに使用しても低音が削れず、かといってハイもちゃんと出ること。こんなところだ。
ところで若干話はそれるが、先日ギター用にワウを手に入れた。もちろんワウサウンドを使いたいからなのだが、一つ興味深いこととして「ワウを前段にかけるとFuzz Faceをオンにするとワウがかからなくなる」という現象があるようだ。これはネットで調べてみた結果、どうやらワウをかけることでFuzz Faceのフィードバックがワウ側にも影響することが原因のようであるが、これについてはここのサイトがすっごい深い考察をしてるので参考にしてほしい。
これを解決するには、間にバッファをいれることでインピーダンスを小さくすることが有効らしい。しかしながら、普通にバッファ的なものを入れるとうまくいかなかった。ワウはかかるが、ボリュームに関係なく音が常に歪むようになってしまったのである。これも、同じような検証をHoochie'sの村田さんが検証、解決している動画があるので参照されたい。
おれは難しいことはわからないので自分なりに解釈したが、要するにインピーダンスが小さいというのは電流が大きいことに由来する。オームの法則でいうR=V/IのIが大きいのでR(インピーダンスの場合はZ)が小さくなるわけである。電流が大きいとパワーがあるので、そのままFuzz Faceに突っ込むと歪みやすくなる、ということだと思う。上記のHoochie'sの動画では、Crews製バッファを使うことでなんと「インピーダンス調整」ができるので、これでバッファを通しさらにインピーダンスを上げることで、歪まずにワウをかけることが出来るのである。この仕組みを探したがさすがに見つからなかったので、自分なりに解決方法を見つけることにした。そして編み出したのが、「バッファとFuzz Faceの間に抵抗をはさむ」ことである。これでバッファを通した後で無理やりインピーダンス(=抵抗)をあげることで、きれいにワウをかけることに成功した。さらに、ただ抵抗値を上げると音量が下がってしまうので、音量をキープしたいときのためにバッファとしてMXR Microampを採用した(といっても自作品だが)。これで音量を上げつつインピーダンスも上げることが出来た。これをワウ自体に組み込むModをやったりもした。ミニワウであるDunlop社CBM95に、Microampのオンオフスイッチ、Microampのゲインつまみ、疑似インピーダンス付加用つまみをつけている。
ここで、このModでも利用した「Fuzz Faceの前に抵抗をはさむことで歪みを抑える」ことに注目し、これをそのままインプットゲインとして使えばいいんではないか?という発想を得ることが出来た。これを基に作ったオリジナルFuzz Face(?)の回路図が下記である。
手書きで申し訳ない。
通常のFuzz Faceと異なる点を以下で説明していく。
・Fuzzつまみの位置の違い
このFuzz Faceでは、インプットゲインをFuzz調整つまみとし、通常のFuzz部分をVRではなく固定にしている。オリジナルのFuzz Faceを使用していて思ったのは、Fuzzつまみはだいたいどんなときもフルに近い値で使用していること、しかしながらフルにするとノイズが乗るので、「フルからちょっと下げたところで使う」ことが推奨?されていることである。これを再現すべく、Q2エミッタの下部分の220Rと1Kの抵抗でその機構を作っている。パッシブのジャズベースで使用する場合、インプットゲインつまみを50Kとすることで、全部しぼると歪みがなくなり、前回にするとがっつり歪むといういい感じになった。また、Bカーブだとなかなか回しても歪んでくれないという問題もあったので、Cカーブにすることでちょうど音感上直線的にひずみが増えていくのでこれを採用した。Aカーブでもいいのだが、Aカーブだと左に絞ると歪み全開、右に回すと歪みが抑えられるという逆のつなぎ方をしなければいけなくなるので、Cカーブが適している。ベースはギターよりも楽器自体の出力が大きいので、ギターで同じ機構にするならインプットゲインのVRの抵抗値を少し小さめにしたほうが良いかもしれない。
・フィードバック部にコンデンサ挿入
今回はPNPのゲルマニウムトランジスタを使っているのだが、意外とトランジスタ自体のノイズが大きかった。これはシリコンでも同様だったのでまぁそんなもんかなと思ったが、それでもノイズはできるだけ消したいので、フィードバック部分に470pFのコンデンサを挿入してハイ成分の増幅を抑えるようにした。ギターの場合はもっと小さい値にしたほうが良いかも。
・アウトプットコンデンサの選択スイッチ
これは一応ベース用ということで、オリジナルFuzz Faceの10nFとそれより大きい100nFを選べるようにした。テスト段階ではいい感じだったが、100nFだとかなり低音が強調されてしまうことが分かった。まぁオリジナルFuzz Face自体低音が出やすいエフェクターだし。かといって10nFではやっぱりベースの場合低音がもの足りない気がするので、10nFの並列にして合計20nFにするくらいのスイッチでいいかもしれない。ていうかベース用と割り切るならこのスイッチ要らなかったな。
・Fuzz部のコンデンサを47μFに変更
これは正直どうでもいい。22μFと比べたけど特にどっちでもいい気がした。47μFがたくさんあったので使ったという感じ。
・電源部分に100μFのコンデンサとダイオード追加
これはまぁお決まりのやつ。電源保護と交流成分の除去(平滑化というらしい)のため。
・ポジティブグラウンド構成
これは前回の記事でも書いたことと関連するが、今回はPNPトランジスタのため、GNDと9Vの接続を全部逆にする必要がある。ここで注意したいのが、インプットとアウトプットジャックのGND部分も9Vにちゃんと変更すること。これをしないと音は出るがノイズが乗っちゃうので注意。Rangemasterの記事だけど、ここにポジティブグラウンドの構成例とそれぞれの特徴が書かれている。
ちなみにおれの使ってる電源としてはフルアイソレートのパワーサプライだけど、他のエフェクターと一緒に接続して全く問題なかった。たまにアイソレートといいつつGNDは共通みたいなパワーサプライもあるけど、それは使えないので注意。単独でAC/DCアダプターを接続するならOK。電池を使うのならもちろんそれもOK。
また、今回はポジティブグラウンドだけど普通にセンターマイナスで作った。センタープラスにする意味がないからである。これなら極性反転プラグがいらないし。ていうかこれホントにわからないことのひとつなんだけど、なんでポジティブグラウンドのエフェクターはセンタープラスで作るのだろうか?工場とかで大量生産したり、PCB基板を他のエフェクターと共通にしたりするならセンタープラスのほうが作りやすいからいいんだけど、そうでないならセンターマイナスでもポジティブグラウンドは普通にできるからこっちのほうが良いと思う。
2021/05/26追記
センタープラスとかセンターマイナスの理由、ここに書いてあった。
エフェクターの場合(という話でもないが)、DCジャック自体が電池と外部電源を切り替えるスイッチの役割になっていて、DCジャックにプラグがささっている時は外部電源、ささってない時は電池を電源として使えるようになっている。この時、切り替えの接点が構造上プラグの外周側(つまりセンターでない側)から取るようになっており、切り替えをグラウンドで行うと、プラグを抜き差しするたびにグラウンドが瞬間的に遮断されることになる。これはよろしくないので、切り替えの接点はプラス側で取る方がいいというわけ。で、ネガティブグラウンドの場合はセンターにグラウンド、外周にプラス電源を取るので、エフェクターではセンターマイナスが一般的になっている、ということらしい。
ではポジティブグラウンドはどうかというと、今度はセンターにプラス(高い電圧)が来る。しかしポジティブグラウンドなので、高い電圧であるプラス側をグラウンドとして扱うことになり、やっぱり外周(この場合は負電源)を接点に取るのが電気的に安心なわけだ。
以上が理由になるが、書いてて思ったのが、結局「センタープラスでもセンターマイナスでも、センター側にグラウンドが来るので、グラウンドでない方をジャックの外周側にして切り替えの接点に使う」という考えに基づいている。なんかこれ前の記事でも書いた気がするけど、とりあえずこれが結論でいいよね。
追記終わり
以上が変更点といえるところか。完成品がコレ。赤いつまみがFuzz、黄色いつまみがVolume、スイッチがコンデンサの選択(ローカット/ブースト)。
このエフェクターのいいと思うところは、さっきも書いた通り「Fuzzつまみで歪み量を変えられる」こと。普通のFuzz Faceは「Fuzzつまみは全開、または全開近くで使うのがミソ!歪量は手元のボリュームで調整。」と言われるけど、これは従来のFuzzつまみ部分を全開近くで固定している。そのため、歪み量をFuzzつまみ(という名のインプットゲイン)で調整できるので、Fuzm FaceのくせにFuzzつまみを使って「普通に」歪み量を調整できることである。ベース、特にジャズベースで使う場合、ベース側のボリュームなんていじらないというかいじれないので、エフェクター側のつまみで歪み量を調整したいわけなのだ。
あと、トランジスタは選定したとまでは言わないが、hFE値はかなり小さいものを使用している。hFE値の高いものも使ってみたが、かなりハイゲインでシャリシャリしたので、ギターならいいけどベース用としては微妙かな…みたいな感じだったので、低hFE値のものを使った。バイアス抵抗の値(Q1:27K、Q2:5K1+1K)もトライアンドエラーでかなりざっくりと選んだし、バイアス電圧も測定してない。でも良い歪み方なので、この抵抗値が最適解だと思っている。
終わり