館長 那耶のひとこと…
後篇です。続きをどうぞお楽しみ下さい。
皆様にも、魔法のような奇跡が起こるかもしれませんね…。
「お嬢様」
「なっ、なに?」
急に声をかけられてびっくりした。大丈夫、落ち着け。
「まるで、魔法の様ですね…」
「ほんとね」
二人で笑いあう。あぁ、その笑顔が見たかったの。あたしは、その笑顔が。
「…ずっとこうしていられたら良いのに…」
「…え…?」
今、何て言った?
「何でもありません、お嬢様。そろそろ帰りましょうか」
一生懸命誤魔化す様に立ち上がり、片付けを始める昴を見て、あたしは胸がどきどきして止まらなかった。今、何て言ったの?本当に、そう思ってくれたの?どうしよう、顔が熱くなってくる。
「お嬢様、立っていただけますでしょうか」
「あ、うん」
なんでそんな普通にしてるのよ。ちょっと、悔しい。
「さあ、行きましょうか」
「わかったわ。さっさと行きましょう」
なんだかむかつく。あたしだけ、こんな舞いあがっちゃって。…わかってたけど。でも、なんか悔しくて。悲しくて。やるせなくて。
「早く来なさい昴…って、あっ!!」
左足がずきっと痛む。体が引力に負ける。助けて、昴。反射的に、そう言った。
「お嬢様!!」
昴の叫び声と共に、あたしは何かに包まれ、抱え込まれる。
「大丈夫ですか、どこか怪我は!?」
「大丈夫…」
「はぁ、よかった…」
大きくため息をつき、ほっとしたように微笑んだ昴に、あたしは気が付いたら抱きついていた。
「…お嬢様?」
なぜかわからないけど、体が震えてる。心も震えてる。
「落ち着くまで、こうしていましょうか」
そっと、そう言って頭を撫でてくれた。優しくて。その優しさが、泣きたいくらい嬉しくて。でも、それを認めたくなくて。
「昴がちゃんとしてないからこうなったのよ?」
「…申し訳ありません」
あぁ、そんな顔させたくなかった。どうして、こんなこといっちゃうんだろう。
あ、どうしよう、足が痛い。ずきずきする。
「ねぇ昴、あたしを屋敷まで背負ってくれない?」
「足をひねられたのですか?申し訳ありません、私がいながら…」
「あ、大丈夫大丈夫。ちょっと痛いだけだし。またこの道を歩くのが嫌なだけ」
「わかりました。では」
昴の背中に乗って、きゅ、とくっつく。あったかくて、なんだかほっとする。
「…あったかい」
「そのまま寝てもかまいませんよ、お嬢様」
ふっ、と笑って昴がそう言う。むかつく。あたしはぽかぽかと昴の頭を叩いた。
「あたしはそこまで子供じゃないわよ。失礼よ」
「申し訳ありません」
あ、こいつ笑ってる。むかつく。
…そういえば、あれ、今聞こうかな。
「ねぇ昴」
「何でしょう、お嬢様」
「…昴も、ずっとこうしていられたらと、思ったの?」
昴がはっ、と息をのんだような気がした。
「お気づきでしたか」
「うん」
昴がしばらく黙る。顔が見えないからもどかしい。しばらくして、昴がため息をついてこう言った。
「…いつまでもお嬢様の傍にいて、また空を見に行くことができたらと、思いました」
「じゃあずっとそばにいなさい。言う事聞かなきゃ許さないんだから」
あたしの言葉を聞いて、昴は少し嬉しそうに、でも声をあげて笑った。
「ちょっと、何笑ってるのよ」
「何でもありませんよ」
「何でもないのに笑う訳ないでしょっ!」
「お嬢様」
まだ少し笑いながら昴はこう言った。
「ずっとおそばにいます。昴(ほし)と咲夜(よる)は一緒にあるものですから」
「!」
どくん、と鼓動が跳ねる。一気に顔が熱くなる。あたしの気持ち、君は気が付いてるの?
「上手い事言えました」
ふふん、と嬉しそうに言う昴。こんな気持ち、認めてやんない。絶対認めないんだから。
「全然面白くないわよ。気持ち悪い」
「それは残念です…」
しょぼんとする昴を、そっと撫でる。
「でも…ありがとう」
そういうと、昴は微笑んだ。それを見て、あたしもすごく嬉しかった。
たぶん、一生忘れないくらいの、喜びだった。
「お嬢様、食後の御飲み物は何になさいますか?」
昴の声ではっと現実世界に戻ってきた。
「あ…えっと…ココアで」
「かしこまりました」
にっこりと微笑みココアを作りに行く昴を見て、あたしは微笑んだ。
いつまでこうしてられるかわからない。きっと、この先あたし達の進む道は違ってくるのだろう。
こんな想い、届くはずがない。叶うはずもない。ずっと、胸に秘めておくのが一番いい思い。
いつか、こんな想いを抱かなければよかったと思う時が来るのかもしれない。
でも、あの時は幸せだった。良い思い出だったと思えるだけでも、良いのかもしれない。
あなたの為に泣いて。笑って。喜んで。悲しんで。
どんな思いをしても、きっと後悔はしないだろう。だって、そう言うものなんでしょ?
「ねぇ昴」
「はい、お嬢様」
だから。
「今夜、星を見に行きましょう」
あたしはあなたに恋をする。