はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き私の原点である、上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズについてです。母なるユサの山並みの底で、姿を現す陰謀とは。

 

「闇の守り人」上橋菜穂子(偕成社)

 「精霊の守り人」で、チャグムを無事守り抜いたバルサは、彼の用心棒をしたことで、自らの過去と向き合う決意を固める。故郷のカンバルの赴いたバルサは、新たな陰謀が進行していることを知った。再び、彼女の槍が闇を切り裂く。


 養父であるジグロと、バルサの間にあった決して一筋縄ではいかない気持ちが、何とも痛々しくて、それでいて愛おしい一冊。ログサムの陰謀がなければ、決して成立しえない関係であったことを踏まえても、実の娘でもないバルサに対して、ジグロが注いだ愛情の大きさは、本当に胸を打つものがあった。


 どうして、こんなに、見返りもなく、むしろ損ばかりするはずの道をジグロはあえて選んだのか。葛藤しながらも、本当に人にとって大切なもの、身分でもお金でも権力でもないものを貫き通したジグロの一生には、激しく心を揺さぶられる。私が彼と同じ選択を迫られたとき、果たして人にとって失ってはいけないものを真っ直ぐ見通せるのかを考えると、ジグロの選択には頭の下がる思いだ。


 ところで、このカンバルの人々の名前には一つ気になるところがある。少し分かりやすいように書き並べてみよう。


カグロ ジグロ ユグロ

カッサ ジナ

カルナ ユーカ

カーム

バルサ

ナグル ログサム

ラダール


 察しの良い方はすでにお分かりだろう。上の四行に注目していただきたい。明らかに「カ」から始まる名前が多いのである。また、それらに比べると少ないが「ジ」や「ユ」から始まる名前もある。


 カグロ、カッサ、カルナ、カームはそれぞれその家の嫡男であろう。それを踏まえてこの名前を見てみると、嫡男には「カ」から始まる名前をつける風習のようなものが見えてくる。また、カンバルという国名自体も、「カ」から始まっており、「第一の」といったような意味を含むのかもしれない。もちろんカンバルというのは「神の額」という意味であるらしいから、一概には言えないが、全くの憶測というには例が多い。


 また、カンバルでは多くの子を生み、その中で育つのはほんの一部といった状況が長年続いている。「カ」から始まる名前についてはほとんど疑問の余地もないだろうが、右に目を移して「ジ」「ユ」から始まる名前を見てみると、そのことは考慮に入れるべきだろう。「カ」に比べて例も少ないので、確信は持てないが、「ジ」が2番目の子どもを示し、「ユ」が3番目の子どもかもしれない。


 さて、ここで新ヨゴ皇国の狩人たちを思い出していただきたい。一、二、三、四の意味で、モン、ジン、ゼン、ユンである。この数え方が果たして大陸のヨゴ皇国のヨゴ語由来なのか、はたまたヤクー語由来なのかは判断がつきかねるが、もしこれがヤクー語由来だとしたら、カンバルの言葉とも共通性があるかもしれない。「流れ行く者」でタンダもこの数字を使っているから、身分の高い人々限定の呼び方ということではないだろうし、タンダにはヤクーの血が混ざっているから、あながちヤクー由来としても間違いではないと思われる。


 すると、カンバル語との共通点が見えてくるではないか。二が「ジ」から始まる、ということである。またそうすると、「ユ」は四ということになり、ジグロとユグロの間に1人、カルナとユーカの間に2人がいたのかもしれない、とも考えられた。


 ともあれ、私にはこういう方向の専門知識がないので、断定はできないが、一度そういう目で見てみると、なかなか真実とも思える、そんなカンバルの名前についての考察だった。


 考え、読むほどに奥深い守り人の世界。これからも少しずつ深めていきたいと思う。


おわりに

 ということで「闇の守り人」についてでした。細かい考察が長くなってしまいましたが、お楽しみいただけたでしょうか。


 さて、次回は京極夏彦さんの「姑獲鳥の夏」を読み終わっているので、それについてにできたら、と思っています。「夢の守り人」もそのうちに。それではまたお会いしましょう。最後までご覧くださり、ありがとうございました!