さあ、親愛なるシャフリヤール王、今宵もシンドバッドの冒険のお話をいたしましょう。
シェヘラザードは、黄金の髪飾りに手をやりながら、語り始めました。
シンドバッドの暮らす国は大変豊かな国でございましたが、
ある年、どういうわけか、心の病を患う者が数多くなったのでございます。
民の苦しみを見て、心を痛めた王様は、
シンドバッドに何か策はないものかと相談なさいました。
シンドバッドは、
心の病を治すという評判の女主人の噂を耳にしておりましたので、
そのお屋敷を訪ねてみることにしたのでございます。
無邪気に微笑む身なりの良い女主人がシンドバッドを快く出迎え、
屋敷の広間に通してくれました。
シンドバッドがお茶を頂いていると、
お屋敷に出入りする御用聞きがやってまいりました。
「奥様、今日のご注文は何でございましょうか。」
「麻袋いっぱいの小麦と瓶いっぱいのコショウともぎたての果物を見繕っておくれね。
それから、息子に気立ての優しい嫁がくるように、
庭の椰子の木に去年よりたくさんの実がなるように。」
「はい、奥様。確かに承りました。」と愛想よく返事をして、
帰って行きました。
女主人は、
「忘れないうちに、私も書いておきましょう」と言って、
紙に先ほどの注文を書き連ねました。
シンドバッドは、
御用聞きに息子の嫁や椰子の実を頼むなんて、どういうことだろうと不思議に思いました。
「ああ、私の人生はこれからどうなるのかしら、と悩み苦しむ方がおられます。
でも
どうなってしまうのかしら・・・これこそが心を蝕み、恐怖と不安に陥れる原因なのです。
そのようなことにエネルギーを使ってはなりません。
私たちがすべきことは、
どうなってしまうのかしらと悩むことではなく、
どうしたいか、どうなりたいか、明るく前向きな未来をしっかりと思い描き、
人生の注文書として明確に表明すれば宜しいのですよ。
物資の注文を出すように、
自分の人生についても注文を出せば宜しいのよ。」と嬉しそうに申しました。
そして、
「シンドバッドよ、どうか王様にお願いして頂きたいことがございます。
『幸福の注文書』を御作りになり、全ての民に配って、
毎晩、各々がそこに書き込むようにご命じて頂きたいのです。」
シンドバッドは、王様のもとに駆け戻り、
女主人の願いを申し伝えました。
王様は、早速、家臣に命じて『幸福の発注書』の案を実行いたしました。
王様は、その夜、
ご自身の発注書に「全ての民が幸福でありますように」とお書きになると、
安堵してお休みになられました。
まあ、まあ、すっかり夜も更けて、星が輝いてまいりました。
今宵のお話はこれにておしまい。
この続きは、また明日。