ハンス・クナッパーツブッシュ
Hans Knappertsbusch(1888-1965)
天邪鬼なカリスマ
古の時代の音楽家はみな強烈な個性を持っているが、その猛者たちの中でもクナッパーツブッシュはさらに別格の存在。得体の知れない異質な雰囲気を漂わせ、その不思議なカリスマ性から熱狂的なファンがいるほど。音楽そのものは決して誰にでもウケるタイプではないかもしれず、初めて聴くと面食らう人はきっと多いだろう。
クナ(愛称)は普通の枠に収まることは無く、何を仕掛けてくるか想像が付かない。例えば、普通であれは「ここぞ!」という時にテンポを速くして盛り上がるところ、クナの場合は逆に遅くする、なんていうのは朝飯前。そんな変人的な事をやったかと思えば、ごく普通にスルっと弾き抜けたり(これもある意味裏切り)、ツッコミどころ満載。「曲者」とか「天邪鬼」といった言葉が誰よりも似合う指揮者だ。
クナの音楽の特徴だが、古さゆえに録音状態はあまり良くないものが多く、サウンドに関しては完全な把握は難しいが、とにかくスケールがデカいということ、ふてぶてしいほどの解放感、そして躊躇の一切ない真っすぐさがまずは印象に残る。映像を見ると指揮ぶりは堂々としていてとても冷静、そして(現代の指揮者とは比べものにならないほど)動きはきわめて少ない。そこから生まれる圧倒的なパワーと説得力、そして愛嬌。
ベートーヴェン「交響曲 第3番」第4楽章のフィナーレのみ。
クナの音楽の最大の特徴は(これは録音状態に関わらず把握できる)、テンポの作りがきわめて独創的であるということ。ビートはとてもしっかりしていて元々のノリのある音楽を作るが、その上でテンポをどうやって設定し、どう音楽を作っていくか。例えば、トスカニーニであればテンポ作りが誰よりも上手く最高の形で期待どおりにやってくれるし、フルトヴェングラーだとテンポは即興的に、ありえない速さに展開してしまう等、聴いている側の期待と予想をさらに超える動きをする。クナの場合、「そこでそういくか!?!」と、予想と全く違うことをやってくる。テンポの設定はとてつもなく上手いのだが、一筋縄ではいかない、というのがクナの持ち味。
録音は決して多くはないが、ワーグナーとブルックナー、ブラームスやベートーヴェンも一通り揃っている。私のおすすめは、普通だとどうしてもつまらないと感じてしまうことが多い「シューベルト」。テンポは割とノーマルで遅すぎず、クナらしいブリブリな個性が効いて面白く仕上げてくれている。
ブラームス「交響曲 第4番」。ブラームスはクナの本来の能力がストレートに発揮されていると思う。フルトヴェングラー級のヤバさ
それではランキングです
★★★★★(5/5)
リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★★
構成・展開力 ★★★★★
ダイナミクス・インパクト ★★★★★
美しさ・歌・センス ★★★★
緻密・繊細さ ★★★+
サウンド・音色・色彩感 ★★★★
カリスマ性 ★★★★★
魔力 ★★★★★
万能さ ★★★★
人気・ユーモア ★★★★
ワーグナーの楽劇「パルジファル」。クナといえば一番有名なのはワーグナー。
ベートーヴェン「交響曲 第9番」フィナーレのみ。それにしても、クナはかなりのイケメンだ。実は歴史上の指揮者はイケメンばかりというのは知っているだろうか? 意外と気づきにくいのは、トスカニーニ、フルトヴェングラー、クレンペラー、チェリビダッケ・・。ピアニストはそこまでいないんですけどね。