エミール・ギレリス
Emil Grigoryevich Gilels(1916-1985)

 

人類史上最高のピアニスト

 

 

ウクライナ生まれのユダヤ人。旧ソ連時代のピアニストといえばリヒテルとギレリス。どちらかというと遅咲きのリヒテルとは対照的に、ギレリスは若くして見いだされ、13才でリサイタル・デビューするなど早くからピアニストとして活躍した。

 

ギレリスは「三大巨匠」であるルービンシュタイン、ホロヴィッツ、リヒテルに匹敵する歴史上最高の能力を持ったピアニストであるのは疑う人はいないと思うが、疑問なのはギレリスの本質はやや誤解されているのではないかということ。ギレリスのよくある紹介文では、鋼鉄のタッチ,強靭なテクニック,哲学的といった言葉が並びますが、これらはギレリスの部分的要素に過ぎず、全体像を表したものだとするとかなり違和感があります(このあたりはギレリスファンはよく知るところだと思いますが)。

 

特に有名なベートーヴェンの録音シリーズによって生まれた誤解であるような気もしますが、ショパンやラフマニノフ、フランスものを聴いたことがあるでしょうか?

 

ギレリスの第一に挙げるべき大きな特徴は、誰よりも美しく音楽を奏でるピアニストだということです。旋律の歌い方、音楽のつながり、フレージングやレガートの上手さは三大巨匠を凌駕するほど。ビート感とグルーヴ感に溢れ、構成や展開のセンスの良さと上手さ、クセもきわめて少ないタイプのため音楽はきわめて自然、そして透明感があります。

 

ギレリスは古典派からロマン派、近代ものも含め、作曲家も幅広く演奏しました。晩年になってようやく積極的に録音に取り組み、中でもベートーヴェンが一番有名ですが、これはざっくり言うとビジネス的な要因が大きいように思えます。ショパンやラフマニノフ、フランスものを晩年に残していれば、歴史は間違いなく変わったでしょう。

 

ということで、ギレリスの本当の姿をより知りたいなら、音は悪くなりますが若い時代の録音を聴かなければなりません。「ギレリスはショパンだ!」と聞いたことある人はほとんどいないかと思いますが、私は「ショパンはギリレスだ」と言っています。残した録音は多くは無いですが、その全てが名演。ショパンの「ピアノソナタ 第3番」は私が知る限りギレリスがNo.1グッ

 

 

 

ギレリスのショパンの特徴は、クセやムダが限りなく無く、水が流れていくような自然さ、そして透明感。技術や力で押し込むことなく、たださりげなく話すように永遠に続いていくかのように歌う、まさにショパン演奏の理想形。

 

ショパンはピアノ演奏の中でもきわめて特殊な分野で、技術や力で押し込むことはできないし(そうするピアニストばかりですが)、表情や表現を付けすぎると違和感が生まれ、リズムや歌いまわしも基礎能力の高さやセンスがそのまま表れてしまうという格別の難しさがありますが、ギレリスはそれを難なく自然にやってのけてしまう。

 

ギレリスは交流のあったルービンシュタインやリヒテル、そしてホロヴィッツのような異次元のモンスターではなく、またミケランジェリやグールドのような鬼才(異才)タイプでも無く、あくまで人間らしさ、人柄の温かさ、優しさ、情熱、といった人間臭さが音楽から感じることができます。よって人類史上最高のピアニストはギレリスではないかと私は思うのです。

 

それでは、ランキングキラキラ

 

 

★★★★★(5/5)

 

リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★★

構成・展開力 ★★★★★

ダイナミクス・インパクト ★★★★+

美しさ・歌・センス ★★★★★+

緻密・繊細さ ★★★★+

ヴィルトゥオーゾ的要素・技巧 ★★★★+

魔力・音色 ★★★★

カリスマ性 ★★★

万能さ ★★★★+

人気・ユーモア ★★★★

 

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第21番 ”ワルトシュタイン”」

 

 

 

ドビュッシー「月の光」。若い時代の録音ですが、あまりに見事な音のつながりと美しさ。ギレリスのフランスものの美しさは天下一品。