俺はいつも何かを無くす。

すぐそばに有ったものを無くしてしまう。

どこに置いてきたのか。それとも俺から離れていっただけなのか。

きっと後者が多いのだろう。


何かを、誰かを無くしたとき俺の心の一部も一緒に無くなるんだ。

傷痕の付いた心で真っ直ぐ立つことは、なかなか困難で…だけど立ち上がらなきゃ見えない景色もあるんだ。



共に過ごした時は、人生の中では一瞬かも知れない。けど一瞬でも確かに存在した。
ありがとう、その一瞬をくれて。

ありがとう。
ある寒空の下、その男は独りポツンと立っていた。

すれ違う人々は、皆笑顔に溢れていた。

街に煌めくネオンよりも、窓から覗く家族の笑顔が明るかった。

ふと、小さな少女が手を差し出す。
「マッチ買って」

男はライターを持っていたので、
「要らない」
と言った。

少女は曇った表情になり、
「仲間なのに…」
と呟き、小さな肩を更に小さくして白い息を吐きながら歩き出した…

男は夜空を見上げた。

薄暗い雲からは、雲の切れ端がユラユラと降っていた。
やがてこの街も雲の上の景色になるだろう…

男は明日の自分を考えた。何もない…

男は昨日までの自分を考えた。何もなかった…

男は、まだ何も始めてなんかいなかった。
何も始まっていやしないのに、勝手に終わっていただけだった。

男は今の自分を考えた。何もない…何も…
だからこそ、0を1に変えようと思った。
1は2に変えれば良い。

男は暖かい飲み物を買うと、走った。走った。

そしてあの小さな少女を見付けると、飲み物をそっと渡し
「マッチをください」
と言って、少女の持つマッチを全て買った。

少女の表情は曇りから晴れに変わり、小さな肩をいっぱいに拡げ、
スキップしながら帰っていった…




男の明日には、確かに1が生まれた…
人は何故生きるのか?
何処に向かって生きるのか?
何を抱えて生きるのか?
何を捨てて生きるのか?
誰に出会って生きるのか?
誰と別れて生きるのか?
誰を愛して生きるのか?
誰を傷付けて生きるのか?
何に喜んで生きるのか?
何に悲しんで生きるのか?








それとも…………人は死ぬために生きるのか?



俺は死ぬときに、誰に何を残して死ねるんだろう…