容疑者Xの献身

​原作:東野圭吾
監督:西谷弘

あらすじ 


惨殺死体のアリバイトリックに関する事件。

被害者は花岡靖子の元夫である冨樫慎二。

花岡靖子とその娘である美穂は揉み合いの末に冨樫を殺害するも、隣人である石神哲也にそのことを悟られてしまう。

石神は花岡親子を助けるため、アリバイ作りの指示を出す。

その不思議な隣人に助けられ完璧なアリバイが作られるも、内海刑事から相談を持ちかけられた湯川教授は友人である石神のアリバイ工作を疑う。


『幾何の問題に見せかけて、実は関数の問題』

その言葉から着想を得た湯川教授の答えとは。



感想 


愛情とは。友情とは。人生とは。

関係性に正解なんてない。

人生にも正解なんてない。


正解が分からないからこそ、人生はどうしようもないことの連続だと思う。


石神さんにとっての花岡靖子への「愛」も、

湯川先生の石神さんへの変わらない「友情」も、一方通行でどうしようもなくて、でもどうしようもないと分かっているからこそ、二人とも守ろうと足掻いた。


石神さんは自分の人生を犠牲にして花岡靖子の幸せを、湯川先生は石神さんとの友情を犠牲にして石神さんの人生を。


そして花岡靖子は美穂との生活を守ろうとして、けれど、最後にはそれを犠牲にして石神さんを守ろうとした。

石神さんの献身は、花岡靖子を変えた。

かつて花岡靖子が石神さんを変えたように。



『ひだまりみたいなその笑顔 生きる道を 照らしてくれました』

映画を見終えたあと、福山雅治さん自身が歌うエンディング「最愛」を見つけたときは震えた。


石神さんにとって花岡親子との日々はきっと人生の全てで、そしてそれが失われることが何よりの苦しみだった。


自分の人生に花岡親子がいないことよりも、

花岡親子の日々に自分がいないことを選んだ。

対して花岡靖子は自分の人生に石神さんがいないことよりも、石神さんと罪を償うことを選んだ。


結末に正解なんてないと思う。

けれど石神さんの言った「誰も幸せになれない」結末を、警察でも湯川先生でもなく、花岡靖子が選び取った。


そのことによって「誰も幸せになれない」結末のその先の未来が変わった。

そしてそれを変えたのは湯川先生の石神さんを想う気持ちだ。


全員の交錯する想いが選び取ったどうしようもない未来は、結果的に全ての人を繋ぎ止めた。



現実は、形に残らないものと変えられないものに溢れている。


未来は、変えられないものの前に足掻いた過去の自分と、指の間からこぼれ落ちていった不確かなものの残骸が組み合わさってできている。


何かを失えば擦り減っていくだけなのに、

出会えばあとは離れていくしかないのに、

それでも人は出会い続けるし歩き続ける。


それはそのどうしようもない人生にも、

花岡靖子が石神さんを救い出したように、

またこの物語の先に誰もが失ったものを抱えながらそれでも一人にならない未来があるように、

一粒の奇跡が紛れ込むことがあるのだと信じているからかもしれない。


2022.10.19