
私はハンドルを強く握り絞めた。心の中を見透かされ無いように、彼が案内する夜の東京の街をただ夢中で車を走らせた。
「輝子さんは潰しが効かないから僕がビルを建てて、輝子さんが踊りを教えて、僕が歌を教えるよ。」
「僕は仕事が無くなったら、うどん屋さんでもできるけど、輝子さんにはでき無いでしょう。」
何も言葉が出てこなかった。
言われる通りであった。私の人生、踊り、踊り、踊り。
結婚をして娘を産んだが家事は母に任せきりであった。
私は、素直に彼の言葉を信じた。そして、とても嬉しく思った。これから先の事も考えて呉れている。ずっと一緒に生きて行けるのだと。
彼と出会って2ヶ月ちょっとの時だった。
初めて会ったのは、彼が座長の2ヶ月公演のお稽古の時である。彼の名前も歌も知ってはいたが、容姿は全く知らなかった。彼がデビューした5月に私は娘を産んだばかりだったのと、大阪にいる時は新歌舞伎座や梅田コマ劇場に出演する以外は洋楽でしか踊る事は無かったからである。
お稽古の時、彼を初めて見た時から何かを感じていた。初日が開いて暫くしてから私の方から声をかけた。
「今度飲みに行きませんか?」
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