今日は母の命日です。

 

母の他界後、私は一度も墓参りをしていません。看取って、ちゃんと送って、墓にまで入れたのだから、もうこれ以上私がやるべきことはないからです。次に墓に行くのは、恐らく父を送るときでしょう。

 

ただ、今日一日は、母のことを悪く言うのはやめておきます。

これが私にできるせめてもの供養。

 

 

母は66歳のときに、白血病で亡くなりました。

 

母とは私の結婚を機に絶縁したはずなのですが、その後復縁を迫られ、押し切られるようなかたちで再び行き来するようになりました。復縁を頑なに拒絶し続けるのは、他罰的で不道徳なことのように思われたのです。

 

それからは割り切って、家族として最低限の付き合いはしてきました。ただし、彼女は私に謝ったり許しを乞うたりすることはありませんでしたので、私は未だに彼女を許していません。そんな彼女に、私がしてあげてもよいと思ったのは、彼女の健康を願うことと、彼女の孫を可愛がってやることの二つです。ですので、姪のおもりを頼まれたら出かけていったり、季節に一度ほど彼女の近況を尋ねる電話をしてやったりしていました。

 

あるとき、兄に二人目の子が生まれるということで、自分は兄(※当時はシンガポールに在住)のもとに産前産後の世話のために呼びつけられているのだということを、母から聴きました。母は体調がよくないようだったので、私は母に、「もてなすから遊びに来てくださいというなら行けばよいけれど、そんなことのために無理して行く必要はない。兄にはお金が十分にあるのだから、お手伝いの人を雇えばいいでしょう。そんな頼みは断ったらいい。自分は体調がよくないのだとちゃんと言うように。」というようなことを言いました。

 

その後どうなったのかと思い、ひと月かふた月かして母に電話を入れたところ、「今、病院に入院しているの。白血病になってしまったの。」

と。

 

しんどかったけれど、断れなかったから仕方なくシンガポールの兄のところへ行って義姉の世話や家事を手伝った。帰国後さらに疲労感が強くなったが、シンガポールは大気汚染がひどいので、そのせいだと思っていた。鼻炎がひどくなり熱も出てきたので、かかりつけ医を受診したところ、緊急入院となった。母はそのように話しました。

 

白血病などの血液のがんを患う人は、免疫細胞が死滅するレベルの抗がん剤治療を受けるため、通常では病気を引き起こすことのないような菌によっても、感染が起き、死に至ってしまいます。そのため、血液内科病棟は無菌・準無菌状態が保たれています。そのような環境に外部から菌を持ち込むことは許されません。

 

準無菌のエリアまでは、家族に限って出入りすることができ、母の病室も準無菌室でしたので、父は日々病院に通っていました。しかしながら、この病棟で求められる厳格な衛生管理が父にできるとは、私には到底思えませんでした。このまま父を野放しにしておいたら、母も他の入院患者も、感染症で死んでしまうだろうと思い、父が母の世話をするのを《世話》するために、私は父の病院通いに付き添うことにしました。案の定、父は、カビの生えた洗濯機で洗った衣類を着替えに持っていったり、古本を差し入れしたりという状態でした。

 

私が、

「古本はアカン。本はサラのを買って持っていってあげて。」

と言うと、父は、

「その本はちゃんと消毒したで。」

と。

「全部のページ消毒したんか⁈」

と私にツッコまれるというような具合です。

 

結果的に、母は白血病発症からわずか一か月半後に亡くなりました。死因は敗血症です。抗がん剤治療時は、体内にいる菌で感染症を起こさないよう抗生物質を用いるのですが、死の原因となった真菌(カビ)は珍しいものだったため、抗生物質が効かなかったそうです。私がその真菌についてネットで調べてみたところ、それは東南アジア諸国で見られるものでした。

 

 

夫にも息子にも、まともに命を扱ってもらえず、母は気の毒な人だったと思います。

 

父も兄もそれぞれに、妻あるいは母を大事に想っているそうですが、それなら墓参りくらい行ってやればよいのに。

私は行かないけれど。

 

 

それはそうと、先に言ったとおり、《今日一日は、母のことを悪く言うのはやめておく》つもりなのですが、今書いたこの文章で、私は母のことを悪く言ってはいませんでしたか?