夏山に

蛇涌きかへり

杣道を

われひとり行く

神に喚ばれて
二階で酷暑にもかかわらず扇風機一台で惰眠を貪っていると階下から老父の怒鳴り声が聞こえてきた。
老父は耳が遠いのに加え、老いて生来の短気がますます激しくなり何かあると怒鳴り散らしているのだが、こちらはまたかとうんざりするばかりである。
ちなみに、彼自身は自分のことを温厚であると思っているらしいので噴飯ものなのであるが。
放っておいてもいいのだがそうすると無視されたことで破壊的ダメージを受けた自尊心を回復するために余計大声を出しかねないので仕方なく階下に降りて行った。
老父のいるトイレ前に行ってみるとトイレが詰まっているといって激怒しているのだ。
トイレに激怒しているわけではなく私に激怒している。
曰く、お前のトイレットペーパーの消費量が多いためにこのような事態に立ち至ったのではないかというのが難詰の主題である。
幼少の砌より秘かに思っていたことであるが、全体わが父は何事か変事が出来するやいなや先ずは事態を旧に復するには如何なる方策を執るべきかに思いを致すよりは犯人捜しという差し当たりは非生産的とでもいうほかないことに全精力を傾注しようとするのである。
幼心に私はそんなことより優先すべきことがあるだろうと苦々しく思っていたのであるが。
今回も横でがたがた言っているのを完全無視して便器を覗いてみると細かいトイレットペーパーの混じった水が今にも溢れんばかりになっていた。
で、さてどうしようと一歩後ずさると自動的に水が流れて便器の汚水はトイレの床に溢れだしたのである。
というのは、わが家の便器はTOTOのアプリコットシリーズという、センサーが人の気配を感知して、便座の蓋や便座そのものを上げ下げしたり、自動的に水で汚物を流したりする仕組みになっている優れものなのであるが、異常事態の場合にはこの優れた機能がとんでもない障害となったわけである。
後の世に、私のこの経験から人口に膾炙する諺が生まれる可能性もなきにしもあらずと思うのであるがどうであろう。
まー、ありえなさそうですが。

で、早急になんとかしなければと思い、便器の排水孔の奥になにやら詰まってしまってるのではないかと当たりをつけて腕まくりして右腕を汚水の中に突っ込んで探ってみるものの空を掴むばかり、いや、水を掴むばかり。
うんこを掴まなかったのが幸いであった。

これはもしや下水溝となにやら関連のある障害かも知れぬと最悪の想定をして、そうであるなら専門家の助けを求めるに如かずと祭日に対応してくれるかどうか一抹の不安を感じながら市役所に電話をして事情を話すと浄水場に電話を回してくれた。
浄水場の係員によると下水道に関する業者は決まっているということで、担当者の携帯電話の番号を教えてくれたのでそちらに電話すると、本日は対応できないので他の業者に連絡してそちらに任せるとのこと。
で、その別の業者からの電話を待っていると、二時間経っても音沙汰がない。
がみがみ怒っていたわが老父は酷暑で熱中症に注意するようにNHKが盛んに放送しているにもかかわらず呑気に畑仕事に出かけて行って留守。
あとは最近目に見えて元気をなくしている老母が家にいるばかりであるが、彼女がいつ何時トイレを使いたいと言い出すかわからないのでこちらも気が気でない。
痺れを切らして市の指定業者に再度電話すると別業者に連絡するように催促するというので待っているとすぐに電話がかかってきた。
何時ぐらいに訪問してもらえるかと訪ねると、依頼がたて込んでいて確答できない。相当時間がかかることだけは確かであるという。
あとは、工事担当者に直接電話させるので待ってほしいとのこと。
で、工事担当者からの電話を待っていると一時間半ほど経っても電話のかかってくる気配がないので先ほど電話をくれた別業者に電話をしてみると担当者に催促するという。
で、電話を切ると、電話中に別の電話があったというメールが来ていたので、その電話番号にかけてみると果たして工事担当者であった。
できれば大至急来てもらいたい旨告げると、順番があるのでそれはできないという。では、大体何時頃と聞くと、確実に夜になるという。しかし、そんなに遅くなると家族がトイレが使えなくて大変なのだがと泣きを入れると、どこかのお店で借りるしかないという。うーん、それは困ったと絶句していると、かわいそうにおもったのか、最寄りのホームセンターで棒の先にゴム製の半球状のもののついた、トイレの排水孔にパカパカ圧力を加える器具を試してみたらどうかと言う。
そのことにはついぞ思い至らなかったので、その手があったかと礼をいい、田んぼの中の畦道を電動自転車のモーターをフルスピードにしてホームセンターに向かったのだった。
ホームセンターではトイレ関連品のコーナーでは見当たらなかった例の器具を半ば絶望しながら半狂乱で探していると水道業者専用のコーナーで見つけるという涙ぐましい努力をして手に入れると往きにも増して超高速&信号若干無視で家に取って返して、あわてて便器の汚水の中に例の器具を入れてパカパカやってみた。
数回やって手応えがないなぁ、これは夜まで家族全員排泄禁止の刑かなぁと絶望にうちひしがれながらもパカパカやり続けていると、溢れかえっていた汚水が嘘のようにスルスルと排水孔に吸い込まれいったのであった。

めでたし、めでたし。

あとは、トイレの床をキレイに掃除して失禁しかねない老母をトイレに入れ、工事担当者に電話をして、もう工事が不要であることと、教えてもらった通りにしたらトイレが復旧したことのお礼を述べて海の日のわが汚水との戦いは終わりを告げたのであった。

どっひゃー、えらいしんどかったわー。


で、その後夕方になって出かける用があって並木通りの歩道を自転車で軽快に走っていると、突如、水しぶきめいたものを浴びたのである。
セミがうるさく鳴いていたので、恐らくはセミのオシッコをわが顔面に浴びたようである。


近来稀にみる、なんという排泄に纏わる、悲惨な海の日であったことか!!www


ちなみに、今これを寝ながら書いていると、どっかから忍び込んだ蜥蜴がわがふとんの嬉々として駆け抜けて行きましたとさ。(;´д`)