駅のプラットホームから階段を下りた改札口前の構内の隅で誰かを待っていた。
おかしいなぁ、誰を待ってんねんやろと心当たりを思い浮かべてると、黒のド派手なドレスを着た玉ねぎ頭の黒柳徹子が不意に現れて、待たせてごめんねって自分に声をかけてきたので、ええーっ、黒柳徹子と知り合いになった覚えがないねんけどと内心で冷や汗をかきながらめちゃめちゃ焦っていた。
どういうわけか、黒柳徹子が改札口の脇の駅員室の窓から顔を覗かせていた駅員に向かっていきなり朗々とアリアを歌い上げはじめた。

ここの駅のトイレは汚なすぎるわよ~!!
流してないうんこが便器からはみ出していたざま~す!!
便器のまわりにトイレットペーパーの切れ端がいっぱい散らかっていたざま~す!!
ちゃんと掃除をしないと徹子の部屋で言っちゃいますからね~!!

キャンキャンとかなきり声のソプラノでぶちまけてすっきりしたらしい黒柳徹子がさぁ行きましょうと言うので駅を出ると、そこは京阪本線の三条駅から七条駅が地下化される前の、ゆりかもめの舞い飛ぶ鴨川の川端を薄い緑と深緑のツートーンカラーの車両が走っていたころの七条駅だった。
七条大橋の方を見ると歩いているおじいさんがいきなりゲロを盛大に吐き始めたのでびっくりしていると、黒柳徹子がうんこまみれのドレスをたくしあげてゲロっているおじいさんの救助へと向かっていったのを自分はぼんやり眺めていた。
ふと智積院のある東山方面を振り返ると、白いガウンを着ているのになぜか半裸同然の巨体の女性、アメリカのアニメ『ボスベイビー』に出てくるオムツだけ穿いてほぼ全裸のジンボというデカい赤ちゃんを巨大化したような感じの女性が、頼りなさそうな男二人に支えられながらフラフラとこっちに歩いてくるのが見えた。
危なっかしいなと思いながら、よくよくその女性を見てみると、彼女の腹の辺りに巻きつけてある医療機器らしいものから火が出ていて、アッと声をあげかけたところで、その巨体の女性が前のめりにバッタリ倒れてしまった。
こらあかん、救急車を呼ばなあかんわ!!ってあわててるところで急に目が覚めた。

まだ暗い、夜明け前の窓の外を救急車のサイレンの音が遠くにかすかに聞こえていた。
そこかしこ

拭いがたがる

思ひ出に

ふと空耳す

母の呼ぶ声

音もなき

落花に埋もる

わが母よ

永訣の朝に

吾立ち尽くしをり