私が翻訳した「パワー・オブ・フィルム~名画の法則~」の著者ハワード・スーバー(UCLA映画学科 名誉教授)が、本書の内容についてコメントしているビデオがあります。




ここでスーバー教授は“6つの法則”を語っていますが、それは、いわばハリウッド映画の“あるあるネタ”と言えましょう。次に挙げる法則に、果たして皆さんは共感できるでしょうか?




法則1: 記憶に残る名画のほとんどは主人公が“罠にはまる”作品だ




主人公が最初からよろこんで冒険に向うケースは、あまりありません。ハリウッドでは、何らかの罠にはまった主人公が仕方なく冒険を始めるパターンが定番なのです。




法則2: 脚本を書く時に、必ずしも“知ってること”だけにこだわる必要はない




脚本家は、知っていることだけを書いているのではありません。SF映画にしても、サスペンスにしても、知らない世界を想像力を膨らませて描くからこそ面白い作品が出来上がります。経験よりも大切なのは、人々を共感させる感性です。




法則3: 登場人物のモチベーションが気になったら、そのストーリーはどこかで破綻している




映画を見ていて「主人公は何でこんなことするんだろう?」と思うことがありませんか?そんな風に思わせるストーリーは、どこかに問題があります。名画は、細かいことを気にせずに見られるものなのです。




法則4: 我々が実生活で求める成功を名画のヒーローは熱望しない




コメディー作品を除けば、名画のヒーローは、なかなか幸福になれないと言えましょう。自らを犠牲にして人々を幸せにするからこそ、記憶に残るヒーローになれるのです。




法則5: そもそも名画にアンチヒーローなど存在しない



よく“アンチヒーロー”と言いますが、それではヒーローの反対ということになってしまいます。一見ヒーローらしい態度をとらない主人公もいますが、ヒーローには変わりないのです。




法則6: ヒット作にはハッピーエンドが必要だと誰もが思い込んでいるが、それは誤解だ




最後にヒーローが大切なもの、あるいは命を失ってしまう名画は、たくさんあります。必ずしも“ハリウッド映画=ハッピーエンドで終わる”とは限りません。



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カッコーの巣の上で(1975)


監督:ミロス・フォアマン

出演:ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー、ウィル・サンプソン


刑務所の労働を逃れるために精神異常者になりすまして精神病院にやってきた男の、患者たちとのふれあいを描いたこの作品。アカデミー作品賞、主演男優賞(ニコルソン)、主演女優賞(フレッチャー)などを受賞した、アメリカ映画を代表する名画の1つです。


ニコルソン演じる主人公のR・P・マクマーフィーは、権威をふりかざすラチェッド婦長(フレッチャー)と対立しながらも、持ち前の人なつっこさで患者たちに生きる喜びを教えます。


しかし、最後にはひどい懲罰を受け廃人になってしまう主人公。患者のチーフ(サンプソン)は、マクマーフィーのあわれな姿を見かねて、枕で窒息死させてしまいます。


ハリウッド映画なのに、こんな悲しい結末でいいのでしょうか?


UCLA映画学科の名誉教授ハワード・スーバー教授は「ハリウッド映画がヒットするにはハッピーエンドが必要だと思われているが、それは誤解だ」とズバリ指摘しています。


確かに「ゴッドファーザー」「明日に向って撃て」「真夜中のカーボーイ」などなど、ハッピーエンドで終わらない名画は山のようにありますね。


「カッコーの巣の上」では、最後にチーフが病院を脱走して、死んだマクマーフィーに代わって自由を求め旅立ちます。これによって、ある意味、主人公の魂が報われたと言えましょう。


ハッピーエンドではなくても“救い”がある。だからこそ、この作品は不朽の名作なのです。


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ゴッドファーザー(1972)


監督: フランシス・フォード・コッポラ

出演: マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ダイアン・キートン


何度観ても、ついついハマってしまう映画と言えば、「ゴッドファーザー」です。


IMDB(インターネット・ムービー・データベース)でも、読者投票で10点満点中9.1ポイントを獲得し、すべての映画の2位にランキングされているほどの人気作品なのです。


本来、一部の男性層にしかウケないはずのマフィアの映画が、なぜ不朽の名作となったのか?


それは、暴力と同時に家族を描いたからです。


「マフィアになりたくない」と言っていたマイケル(パチーノ)は、父ビトー(ブランド)を救うために敵を殺し、やがてマフィアの一員となり、愛するケイ(キートン)にも背を向けてしまいます。


UCLA映画学科の名誉教授ハワード・スーバー教授は、普段はなじまない2つの要素を組み合わせることで、作品のパワーが高まると分析。「ゴッドファーザー」については、暴力的描写と家族のドラマを融合したことが、不朽の名作になった理由だと指摘しています。



「あなたは人を殺したの?」と問いただすケイに、しばらく間をおいて「違う」とウソをつくマイケル。


心配そうに見守るケイの前で、ゴッドファーザーになったマイケルの部屋の扉が閉ざされるラストシーンは、何度見ても切ないですね。


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