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拙句文集『雫が海となる神話』(左右社)は、最終校正、
表紙のデザインなどすべての工程を終え、
5月1日に刊行となります。
前半の「雫」の章は川柳作品のみ、
後半の「海へ」の章は川柳とエッセイのコラボレーションです。
帯の惹句と巻末の跋文は、産経新聞社の編集委員、
荻原靖史さんが書いてくださいました。
心より感謝、です。
● 帯より
この鍵で鍵穴で・・・
がちゃりと、世界が開く。
― 荻原靖史
●「雫」より
一閃を摑んで呑めば胸に月
一滴の雫が海を産む神話
曇天の彼方に宇宙あり 春へ
●「海へ」より
眼の前の男が背負っている銀河
あらわれたとき、男は、後ろ手だった。
握った右手に、星を一つだけ、隠していたのだろう。
今思えば、幽かな星あかりが男の背後から漏れていたのかもしれない。
あかりをはっきりと見た記憶はない。
ただ、しずかな星の気配を感じた。
ずっとしばらくののち、男は、後ろで組んでいた手を、やおら前にまわした。
右手の掌をわたしのほうに向かって用心深く差し出し、そおっと開いた。
そこにはやはり、ちいさな星がたったひとつ、ちょこん、と載っていた。
男の掌に覆いかぶさるようにして、まじまじと星に見入った。
うつくしかった。
そのわたしの掌に、男はそっと星を移した。
途端、星は驚くほど光を増した。そして、熱を帯びた。
やおら視線を上げると、男は今度は、銀河も銀河、大銀河、
スーパーギャラクシーを背負っていた。
こうなると、もういけない。
男の銀河に一瞬にして呑まれる。そしてそのあとは、
男から貰った星を握りしめたまま、
宇宙を彷徨うこととなる。