太陽と愛とで染まるさくらんぼ





昨夕より体調を崩し、お茶しか喉を通らなかった。

うつらうつらしていたお昼過ぎ。

浅い眠りにインターホンが侵入してきた。


パジャマに、ぼっさぼさの髪の毛に、

ぼっさぼさの顔。

この状態のいつもの私なら、

起き上がることなく、

ピ~ンポ~ンにごめんなさいをして、

布団の中に居続ける。


どうしたことか、今日は、そのあられもない

姿を引きずってインターフォンをとると、

宅急便であった。


玄関に届けられたのは、

毎年この時期に、秋田の友人が、

手摘みして送ってくれる

箱いっぱいのさくらんぼであった。


箱いっぱい、といっても、出荷から顔の見えない

人様の口に入る時間を見越して、早めに摘み取られ、

進物箱にぎっしりとお行儀よくならんで

よそよそしい顔をしているさくらんぼではない。


摘み取られるぎりぎりまで太陽をてんこもり浴びていた

甘くてぱんぱんぷりぷりで、自然の紅で

思いっきりそまったさくらんぼ。

私のところに届け、と友人が手摘みしてくれた

さくらんぼ。


それが、高さ3センチほどのちいさなトロ箱のような

形の紙箱に、少々のゆとりをもって

ごろんごろんとたっくさん入っている。

ちゃんと熟れたさくらんぼは、お互いの重みと圧力で

お互いを傷つけてしまうので、進物用の化粧箱に

ぱんぱんに収めることなど、ご法度なのだ。


太陽と愛でぱんぱんに紅いさくらんぼ。

友人が手摘みして、彼女にしたら期せずして、

それでも、私の凹み切ったときに

届けてくれたさくらんぼ。


空腹を感じない胃袋の意に反して、

この愛の命のつぶつぶをいただかいでか、と、

箱からひと摑みごっそりと取り出して

ざっと流水で洗った。


掌からそのまま口に運んださくらんぼ。

ぱりんと破れた薄皮の中から、

とてつもない甘さと命のちからと、

なぜだかいつも絶妙のタイミングで

私に愛を届けてくれる彼女の笑顔が

飛びだしてきた。