村上春樹の長編小説、『ダンス・ダンス・ダンス』。
前年一九八七年、「百パーセント恋愛小説」という
ふれこみで発売された『ノルウェイの森』から、
従来の彼の世界に戻った作品だ。
「ディタッチメント」、すなわち、
人にも世の中にも「かかわらないこと」が
春樹ワールドの根幹を成していて、
当時の私は、ドライで歯もろいサブレのようなその世界に
どっぷりと嵌まっていた。
それは夫もおなじことだったようで、
三年ほどを経て一緒に住み始めたとき、
お互いが持ち寄ってダブった村上作品の
片方を古本屋に持ち込んだ。
『ダンス・ダンス・ダンス』の出会いから二十四年。
きのうは「いい夫婦」の日。いつしかお互い村上ワールドを脱した。
夫のほうの理由を問うたことはないが、私に関して言えば、
社会制度としての結婚の枠に嵌まって子を生し、
ディタッチメントという絵空事の世界から、地域社会という
ともすればお節介なまでのアタッチメントの世界に放り出され、
気付けば村上ワールドの住人ではなくなっていた。
今はいい夫婦がなにかがわからぬまま、今年年初より
お互い人生ではじめて見ることにした大河ドラマ、
『江』を毎週楽しんでいる。