思い出のプロ野球選手、今回は「古沢憲司」投手です

1970年代後半を中心に阪神で先発投手として活躍し、その後西武や広島でも渋い働きをして、20年以上の現役生活を送った投手です。

【古沢憲司(ふるさわ・けんじ)】

生年月日：1948(昭和23)年3月31日
没年月日：2023(令和5)年8月22日(75歳没)

経歴：新居浜東高中退－阪神('64～'78)－西武('79～)－広島('74～'80)

通算成績：543試合　87勝115敗25S　1,896⅓投球回　54完投　17完封　1,181奪三振　防御率3.72

入団：阪神('64　ドラフト以前)

オールスター出場　2回('74、'77)

節目の記録：登板－500試合登板('83.8.30)

　　　　　　奪三振－1,000奪三振('81.4.24)

個人的印象

背番号「51」の投手です。

51といえば、イチロー選手の付けた背番号としてあまりに有名ですが、個人的にイチローの前の51といえばこの人です。なんでこんな大きな番号でずっと一軍で投げているんだろう？と当時不思議でした。

それと、阪神の先発ローテ投手として負けても負けても投げ続けていた印象がありました。田淵選手の電撃トレードで一緒に、新生西武ライオンズへ出ていますが、その年も前年同様に負けまくっていたのを覚えています。

プロ入りまで

高校は愛媛の新居浜東高校でした。

在学中に、学校へ阪神のスカウトが見に来たことを知るや、高校を辞めて阪神に入団させてくれと直訴したといいます。球団は高校卒業後の入団を提示するも、これを固辞し高校2年で中退して阪神入りしたという異色すぎる入団でした。

そもそも彼の学年は高校を卒業していれば、第1回のドラフト会議にかかっていた訳で、同学年でドラフト前入団したのは高校を中退した彼だけだと思います。

60年代

高校にいれば2年の夏にあたる、1964(昭和39)年の7月25日に16歳4ヶ月の若さで一軍デビューしました。同期は皆まだ高校野球をやっていた頃であり、戦後最年少の一軍デビューでした。

このルーキーイヤーは8試合に登板し0勝0敗、17㌄の投球でしたが防御率は0.53の素晴らしさでした。ちなみにこの年は阪神が優勝した年で、ここから1985(昭和60)年まで21年間優勝から遠ざかる事になります。

2年目高校だと3年にあたる1965(昭和40)年に登板数が激増し、31試合に登板してほとんどリリーフで1勝1敗ながら、17歳で初勝利をそれも完封で挙げました。さすが高校を中退してまで入っていた、並の投手ではないな、というところを見せつけましたが…

しかしこれ以降伸び悩みます。

3年目1966(昭和41)年11試合0勝0敗、1967(昭和42)年21試合2勝1敗ながらいずれも防御率は5点前後で、1968(昭和43)年は7試合0勝0敗、そして1969(昭和44)年、1970(昭和45)年は2年間一軍出場がありませんでした。ここまでで現役7年間、78試合で3勝2敗、既に22歳で大卒の同期もプロに入団してルーキーとして過ごしていた頃でした。

阪神の先発投手へ

覚醒したのは8年目を迎えた1971(昭和46)年からでした。同期の大卒入団選手は2年目のシーズンを迎えた年でした。

この年チームは入団して一軍で投げた年では初めてBクラスの5位に沈みましたが、自身はいきなりの12勝で、それまで7年間で3勝からのジャンプアップでした。初の2ケタ勝利、初の規定投球回到達で防御率2.05の素晴らしさでした。この2.05で最優秀防御率のタイトルがとれず、3位だったというので当時の投手レベルの高さが窺えます。

1972(昭和47)年は1勝6敗に沈みますが、1973(昭和48)年はギリギリ規定投球回数に到達し9勝9敗で復活、ここから5年間が勝ち星的なピークと言えるかと思います。

全盛期

20代後半の5年間が成績的な全盛期で、1974(昭和49)年はキャリアハイの15勝を挙げて15勝10敗1Sとし、初めてオールスターにも出場しました。また、投手タイトルを獲った事はありませんでしたが、この年の4完封はリーグ最多でした。

ここからは4年連続で200㌄前後の投球回をこなし、少しずつセーブもあげながらフル回転していました。

1975(昭和50)年は9勝10敗2Sに終わったものの、1976(昭和51)年は2年ぶり3度目の2ケテ勝利で10勝8敗1S、この年は南海から江本孟紀投手が移籍してきて、同学年の2人はこの阪神で意気投合したといいます。

たしかに自分が野球を見始めた頃の阪神の投手で、真っ先に名前が出てくるのは、江本、古沢…といった感じで、当時の阪神の先発ローテーションを支えた両輪といっても過言ではなかったと思います。

1977(昭和52)年は最後の2ケタとなる11勝を挙げたものの、リーグ最多の17敗を記録し、同時にリーグ最多の3完封も記録していますが、先発投手としての限界が見え始めてきました。それでも3年ぶり2度目にして最後のオールスターに出場しています。

波乱の頃

30歳で迎えた1978(昭和53)年、個人的にはこの時の成績がすごく記憶に残っていて、確か3勝15敗と新聞で見たような…と思っていたら実際に4勝16敗(2S)でした。投げても投げても負ける、負けても負けても投げる、幼心にそんなイメージを彼に持っていて、すごく負ける投手とすら思っていました。

この年は規定投球回に到達した最後の年でもあり、完封もこの年が最後でした。16歳からプロ野球に入って早すぎた事もあってなのか、先発投手として機能していたのも20代でほぼ終わり、30代になってからはリリーフに転じて野球人生を永らえた、そんな印象です。

そして、その大負けをした年のオフに、波乱がやってきました…

大型トレード

1978年暮れ、球界に激震が走った阪神・田淵幸一選手の新生・西武ライオンズへのトレード。阪神と西武で結局2対4の大型トレードとなり、特に西武は前年までクラウンライター・ライオンズとして福岡に本拠地を構えていましたが、これが所沢へ移転し、西武ライオンズとして新たに出発するところで、どうしても目玉としてスター選手が欲しい事情がありました。

そこで目をつけられたのがセ・リーグきってのホームランバッター・田淵選手でした。

古沢投手は田淵選手とは別のトレードだともいわれますが、結局は田淵選手と同じく西武への移籍となりました。阪神に在籍して16年間を過ごしましたが、31歳17年目で初のパ・リーグへの移籍となりました。

西武時代

阪神で前年大負けして、更に西武への移籍と波乱に満ちた渦中の古沢投手、新生球団での出直しとなりましたが、当時のライオンズは前身クラウン時代に5位、6位と最下位争いをする有様で、西武になるにあたり、かなり大幅な選手の入れ替えをしたいわゆる「寄せ集め」で、開幕から引き分けを挟む12連敗という最悪のスタートを切る事となりました。

これに合わせるかのように開幕から先発投手として起用されるも連敗続きで、結局前年と同じような4勝14敗5Sと10以上の負越す散々な成績に終わりましたが、この年はチーム次第がすごく弱く、新人の森繁和投手も投げても投げても負けて、古沢投手と同じような成績でした。2年連続でセパ両リーグで10以上負け越した投手というのは、そうはいないと思います。やはり先発投手としての限界もあったと思われ、この年で完投は最後となり、先発もこれ以降はほぼなくなります。