正中の血管はすっかり固くなってしまった。
 もはやなんのためらいもなくそこに刺そうとする看護婦さんも減ってきた。
 今日も刺す場所を探して腕を念入りに点検。
 失敗されるよりいいかと言ってみた。

 左腕にしましょうか。
 だめだめ。先は長いから。ねえtさん?
  ととなりで採血中の転移患者さんに同意を求めている。

 長くないっつーのむかっ

 あと5回なんだから。
 補助療法なんだから。

 そしてついに翼状針で採血。
 翼状針なんか使われる日が来るとは...汗
 だけど、死ぬときに新品同様の体じゃ宝のもちぐされみたいだからいいのいいのあせると自分に言い聞かせる。

 その後に血圧を測りに行ったら、自己最高記録を更新ロケット
 だけど。
 やっぱり、人のふりみてわがふりなおせ。
 この間、下半身麻痺の患者さんに足伸ばしてくださーいと言ってしまったのは誰だったっけ...。

 診察室の前のベンチでぼんやりしていたら、
  これが無制限に続くことになるかもしれない、という誰にも否定できない可能性につきまとわれてどんよりしてしまった。
 前のベンチでは、さっきの転移患者さんとよく見かける患者さんが、
  閉経した話だの子どもたちの話だのしている。
 更年期症状はつらいけど、私たち生理はもういらないよねー

汗汗汗

 なんだかきのうから、絶対星の巡り合わせが悪いにちがいない。

 採血の受付で診察券を見てしまったのだけど、
  この転移患者さんは私より17歳年上だった。
 あしたはお子さんの29歳の誕生日だって。

 こうなる前にあと17年あったら...。
 でも、実際にはきっと、大して何もちがわないだろう。
 むしろ、こうして追いつめられたほうがよかったかもしれない。
 よかったと思えるような生き方をしてやる。

 ベンチに座ったままちょびっと泣いてしまった。
 意外に人の言うこと気にしてるのね...ガーン