フランス映画は苦手。

 

 オサレな感じは、「くっそー、こんな人生とは無縁だ」と嫉妬心を引き起こす。

 必ず入る恋愛描写に、「くっそー、こんな(以下同文)」

 難解な映画だと、「くっそー(以下略)」

 

 本作は初めて気に入ったフランス映画。 

 

 世界史の授業で習ったドレフェス事件がテーマ(私が習った時はドレイフェスだった)

 

 主演は、「アーティスト」に出ていたジャン・デュジャルダンさん。

 オサレ(?たぶん)そうなので、私は未見。 

「アーティスト」 GAGA HPより

 

素のご本人。こういう笑顔が苦手

 

 

 私の偏見では、オサレなフランス映画はダンデーな笑顔の男ばかり出てくるのですが、本作の主人公ピカール中佐は、劇中おそらく一回も笑わない。

 まさに男の中の漢。無茶苦茶かっこよかった。

 

 主な出演者は1970年前後生まれで私と同世代、50歳前後の人ばかり。

 主人公の不倫相手役も「フランティック」以来、お久しぶりのエマニュエル・セニエさんで、撮影時たぶん52-3歳。

 20歳代の小娘なんぞ出てきませんし、余計なラブシーンも無い。

 

EIGA.COMより セニエさん

正直、美人さんといえるか微妙。若いころはエキゾチックな美人さんだったけど。

しかも同世代のハリウッド女優さんのように、過剰に痩せてない。むしろふっくら。

そういうことに構わないところが、とても素敵。

 

 

 ジュテームな印象だったフランス語まで、引き締まった言葉に聞こえました。

 

ほぼしかめ面か無表情。ホントにかっこいい。

写真も大きめに。公式HPより。

 

 

 普仏戦争と第一次世界大戦戦間期(「見出された時」では開戦しているけど)が主な舞台の「失われた時を求めて」の、「ソドムとゴモラ」あたりでドレイフェス事件が出てきます。

 

 あの時代の雰囲気ってこんな感じかあと、衣装も部屋も小物も何を見てもワクワクして、視る快楽で満たされました。

 モーパッサンの小説でよく出てくるピックニックのシーンまで、それこそただのピクニックなのに、おお、こういう感じかあと感動してしまったり

 

 ついでに、流れるようなフランス語の音、登場人物たちが室内を歩く時の床がきしむ音、革靴のきゅっという音までフェティッシュなまでに聞きほれました。

 

 

 19世紀後半から20世紀初頭のユダヤ人問題は、ドイツがナチスのせいで知られているけれども、実はフランスの方が激しさという点で先だったと、Youtubeで見た内田樹先生と町山智浩さんの対談(公式HPにあります)で知って、驚いた記憶があります。

 (まま、キリストが亡くなって以降、キリスト教圏ではどこでもずっとあったわけですが)

 

 やはり「ソドムとゴモラ」だったか、レストランでユダヤ人用に別の出入り口があるという描写があって、ものすごく驚いた記憶があります。 

 本作も、ドレイフェス派を擁護するゾラが有名な声明をだした後、焚書(ユダヤ人ではないゾラの本でしょうが)や店のガラスに五芒星をペンキで描くシーンが。

 フランスもこうだったんだ!と。

 

 

 邦題問題。

 原題はゾラの告発文のタイトルJ'accuse。

 「私は告発する」でいいのに。

 

 予告編も「個人vs権力」が謳い文句。

 国家どころか人種、法、それを超えた道徳、あるいは発達し始めたジャーナリズムなど、いろんなことを含んだ話なのに。

 

 

 いい映画でした。

 お、今週封切りかと思ったら、いつの間にか終わってたし。

 映画館で観たかったなあ。

 

 

 

ロマン・ポランスキー監督「オフィサー・アンド・スパイ」 原題 J'accuse 2019年公開、日本公開2022年