私は児童専門ではないのでパート3「成人期~高齢期」から読み始めたが、本書を遡っていくほど得たものが多かった。


 

 <参考箇所引用>

 問題行動は問題提起行動である(p27)

 

 行動障害のある人は、周囲に対して不信感のようなものをもっているのではないか(p220)

 

 行動障害は過去の哀しみ、現在の苦しみ、未来への不安である(p91)

 

 行動障害がでれば、何かストレスがあるとまずは考える(p103)

 

 本人の生活に注目する(p218)

 

 高機能の人の場合、自分の行動が他人にどのような影響を与えるかの説明を視覚的に行うといい(p77)

 → ソーシャルストーリーズという方法があるらしい

 

 異食、自傷、激しいこだわり行動などは薬物療法は第一選択にならない(p192 市川宏伸先生)

 

 繰り返し行為は、質の悪い退屈しのぎなことが多い。質の良い退屈しのぎが不足していると考える(p20 吉川徹先生)

 

 動機付けにおいて、やる気になるポイントが多数派の人と異なる(p79) 

 → 考えてみると当たり前だが盲点だった

 

 自立課題の使い方は、本人に意味があるかどうかが重要(同)

 

 課題と報酬の関係を理解すること(同)

 

 母性と父性はどちらも大切だが、大事なのは順番(p90)

 → 佐々木正美先生の名言。発達障害、知的障害以外にも応用できる考え方

 
 「先回り」「後始末」支援は、年齢と共に変えていかないと、責任は相手にあるという考え方になり、不適応行動を生んでしまう(p109)

 

 限られたものを選ぶことから、自分のことは自分で選ぶに切り替えていくが重要(p110)

 

 生活費を渡して予算を考えさせることも、ある年齢になれば必要(p112)

 

 本人が選んだことには口を出さない。うまくいかない時のいらいらや葛藤も取り上げない。自分で気持ちを治めるのを待つ(p113)

 

 熱心な親ほど「母子分離」が下手(p104)

 →母子分離は雑に使うと危険な言葉だが、定義は下記。

 

 母子分離とは、子供が親をヒントにしないで生きること(p116)

 

 身体障碍では医療と福祉の連携ができているが、知的・発達障害ではばらばら(p200)

 

 身体障碍の訪問介護研修では、障害特性や支援の考え方を学ぶ前に、まずは当事者に会う(p165)

 

 発達障害支援で年齢の尊重があまりされていない(p107)

 

 

 生き方について

 一般就労した例、芸術的に開花した例は紹介されるが、普通に地域でくらしている自閉症者の姿が見当たらない(p110)

 

 できるだけ知的に伸ばし、生保よりB型事業所、B型よりA型、可能なら就労が幸せという考え方が社会にある。その人が一番適した場所で過ごせればいいのではないか(p76)

 

 

 

 学校について

 学校は言葉がすべてで、重度な障害があっても心をこめて語れば思いが通じるという発想がまだある(p71)

 

 行事には無理に参加させず、できるところだけ参加して、本人にとって良い体験として残ればいい(p72)

 

 

 療育について

 ABAの知識がなければ、行動障害に対して無策なのと同じ(p82)

 

 技法を知っていても、構造化や視覚支援でしばり、選択肢を提示して本人が選ぶのを待てなければ、行動障害はエスカレートする(p92)

 

 ABAセラピーが流行っているが、文脈や機能性を考えないと意味がないのではないか(p157)

 

 がちがちの行動療法は必要か(p158)

 

 

 

 <読後印象>

 参考になったのはパート2「思春期~青年期」にある、自閉症のお子さんをお持ちのお母さんの体験談(第六章)。

 また、技法ばかり知っていても仕方ないと考え、ABAは勉強していなかった。しかし、批判的に構える前にまずはきちんと学んで実践しなくてはいけないと反省。やはり勉強は必要。ABAのマニュアルを購入することにした。

 

 私が本書でもっとも共感したのは、就労にこだわらなくてもいいのではないかという指摘。

 私も若い頃は、療育・治療の最終目標は就労と思い込んでいた。

 しかし今は、要らぬ劣等感や社会への不満、不全感を極力抱かずに、周囲とそこそこ共存して生活できれば、就労せずともいいのではないかと考えるようになった。

 この辺りは発達障害のお子さんを持ちの親御さんでも意見がわかれるようで(p160)、なかなか難しい。

 

 改めてまとめると、読んでいる間は一々なるほどと思った箇所が、子育てでは殆ど「普通のこと」ではないかと思えてきた。

 逆に言うと、発達障害や知的障害と、一度、レッテルを貼られてしまうと、このようなことも「普通でなくなる」のだろうか。

 とはいえ、文章にして語るのと現実はまったく違う。

 激しい行動障害を呈した方を目の前にした時の困惑や不安、私たちだって抱く恐怖感の中で、このように考えられるだろうか。

 

 ところで、ある問題行動が周囲にどう影響するか、これまで私は話して説明していたが、そのこと自体も視覚化した方がいいという指摘は目から鱗だった。

 この1点だけでも、読んだ価値があったと大変に満足。

 

 また繰り返し行為を「別の行為に置き換える」とだけ説明する本は多いが、「質の悪い退屈しのぎ」から「質の良い退屈しのぎ」に導くという説明は、少なくとも私は、とても腑に落ちた。

 

 

 本書は具体的対応方法が列挙されたマニュアル本ではない。

 しかし、問題への対処をどう考えればいいのか、その本質が書かれた素晴らしい本だと思う。

 

 

 

 

日詰正文、吉川徹、樋端佑樹編「対話から始める脱強度行動障害」 日本評論社、東京、2022