夏休みに旅行中、ある町のブックオフで見つけた一冊。

 旅行中、温泉に入っては、これを読んでました。


 本書の構成は全8節。

 第1節は主人公の子供がピアノのレッスンシーン。

 曲はディアベリのソナチネ(知らない作曲家です。デュラスが書いた脚本の映画版では168番-4だったらしいです。でも小説でハ長調がどうとかト長調がどうとか言っています。動画で見つけた168-1です)

 

 

 第2-4節まで、カフェでの主人公の女性とある男との対話と、主人公の女性とその子供との会話。

 第5節はレッスン・シーン。

 第6節で、再び主人公と男との対話と、子供との会話。

 第7節で、主人公宅の食事会。

 第8節、最後の男との対話。

 

 作品自体がソナタのようになっています。

 主題ー展開ー主題の回帰 +終結。

 

 

 さて、私は最初、別の線で読んでいたのですが、解説でなるほどと思いました。

 まず解説の線です。

 

 解説によると、デュラスはインタビューで登場人物たちの会話が「麻酔分析みたいなもの」と言っていたそうです(解説p149)。

 麻酔分析が何をさすのか不明ですが、フランスで当時思想界で力をもっていた精神分析的な対話とすれば、なるほどという台詞がいくつかあります。

 

 たとえば「何か話してください」(p49)や「もっと何か言ってください」「どんなことでもかまわないから」(p76)「話を続けてください」(p102)。

 これらは、本作を普通に恋愛ものと考えれば、愛する女性の話を理解したいと思っている男の焦燥のようにも読めます。

 でも、患者さんが黙り込んだしまった時に、分析家が言いそうな台詞なのです。

 

 

 名前も不思議です。まず主人公。

 Anne Desbaresdes

 Googleでこの名前を検索しても、この作品が出てくるだけで、フランスでよくある名前ではないらしい。

 私の悪癖で、デュラスが造った名前と深読みすることにします。

 

 Des- Barres- Des

 

 不定冠詞Deの複数形に、横棒Barre(本当はbareだけど)の複数形が挟まれていると読める。

 あるいは発音しないSを無視してもいい。

 記号化すれば、de(s)ー de(s)です。

 横棒を挟んで、右から読んでも左から読んでも同じ。

 つまり「何でもない」あるいは「何でもある」。

  

 

  対話の相手はChauvinで、ナポレオンを熱狂的に支持した兵士の名前と同じ。

 「愛国主義」や「排斥主義」の語源になったそうです。

 なので、「男」あるいは「(質の悪い)男性性」。

 

 

 名無しの男の子は?

 これは分かりやすい。

 子どもenfantは「語らないもの」の意味なのは、思想系界隈でよく指摘されるところです。

 

  

 

 などの準備を経て、どう精神分析的に読むかです。

 

 以下は完全な妄想+ネタバレです。

 

 つづく

 

 

 

 

 

マルグリット・デュラス「モデラート・カンタービレ」  田中倫郎訳

河出文庫

480円+税(古本で110円)

ISBN4-309-4613-5