スフィンクスに触れているところを調べたくて、今更の通読(恥ずかしい)。
ウォットン卿の警句がいちいち「どうだ!」という感じで、ちょっと引きました。
若いころの私ならカッコいいと思っただろうけど。
ワイルドが実際に使った警句を作品に持ち込んだとどこかに書いてあったので、ワイルド的にも「どうだ!」だったのでしょうね。
私的には何度もモンティ―・パイソンのスケッチを思い出しました。
グラハム・チャップマン(彼も同性愛者!)がワイルドを演じていて、ホイッスラー(ジョン・クリーズ)と得意げにウェールズ卿(テリー・ジョーンズ)に警句を言っているうちに言いすぎになり、バーナード・ショー(いい人役はこの人、マイケル・ペリン)のせいにしちゃうやつ( ↓ )。
それはともかく、現実は美/感覚/快か、精神/理論/道徳か(p155、254、411)。
はたまた醜さか(p347)が焦点になる後半から、急に面白くなりました。
読んでいて気になったのが名前です。
まずDrian。変な名前。
調べるとスパルタの部族なんですね(ドーリア人)。
それが快に耽溺する美青年というのも皮肉。
Basil Hallward。
邦訳だとホールワードになっていたのでWhol(e)wordかと思って、なるほど言葉で理を唱える人っぽい名前にしたのかと思ったら違いました。
Basilは王、Hallは隠す、覆う、Wardは棟あるいはforwardなどの「へ向かう」。
何かを隠し、覆って場を支配している。
ハリーと呼ばれているのはHenry Wotton卿。
Henryはドイツ語のheimrichが語源で家主の意味だそうです。
(Wottonは不明)
主のようにドリアンを精神的に支配するヘンリー卿。
ドリアンの何かを暴いてしまう気高いバジル。
名は体を表す。
私が読書中に名前で引っかかったのがSibyl Vaneさん登場時。
邦訳だとヴェインなので、スペルがフランス風にVainかなと思ったんです。
で、フランス語だとvainは空虚(発音はヴァンですが)。
お人形さんのように中身が無い・・かなと思ったのですが考えすぎでした。
Vaneは羽とか風見とかの意味なんですね。
さらにSibylは巫女が語源だそうです。
鳥の喩えはこの小説でよく出てくるので、やっぱり意味深に感じます。
ラストでドリアンが追い求める無垢な少女ヘティーさん:Hetty Marton。
変な名前だなと思ったのですが、ハリーと音が似ていませんか?
Henry WottonとHetty Marton。
実際、HenryとHettyは語源的に同じで、男性形か女性形かの違いらしい。
ここにも同性愛を潜ませているとみた(←考えすぎ)。
あ、アヘン窟で会うAdrian Singletonなんか、露骨にもう一人のDrianですよね。
A-drianですもの。
ワイルドがどこまで登場人物の名前について考えていたか不明ですが(実際にモデルがいたそうなので、繰り返しますが完全に私の妄想の可能性が極めて高い)、変なところで楽しめました。
あ、スフィンクスはp371に出てきました。
「女性を定義してみてください」
「秘密なきスフィンクスだな」
でした。
私が気に入ったのは以下。
「女性は耳で愛するのです。男性たちが目で愛するのと同じように」(p368)
オスカー・ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」 仁木めぐみ訳
光文社古典新訳文庫
743円+税(古本屋で500円)
ISBN 4-334-75118-0
Wilde O:The Picture of Drian Gray 1891