タイトルに惹かれて買ったけれども、内容とズレが少しありました。

 タイトルに関わりが一番深かったのはⅢ節でした。

 

 知らなかった概念、compassion fatigue。

 共感疲労と訳されるのだそうです(p63)。

 Compassionと似た言葉にsympathyやempathyがありますが、これらの訳し分け方や微かな意味の違いは論じる方によって統一されていません。

 共感疲労は、共感ストレスによって生まれる「独特な」(p65)疲れ。

 

 武井先生の共感ストレスの定義。

 「『なんとかしてあげたい』『何かしなければ』と感じること」(p64)「同情や慈悲心」(同)などがあるにも関わらず「『何もできない』『何もしてあげられなかった』ということがしょっちゅう」(同)なため、心に負荷がかかること。

 武井先生のお考えになる共感には相手に何かすることが含まれているようで、やや独特。

 

 

 知らなかったこと、その2

 燃え尽きburn outと共感疲労は違う(p67-68)。

 武井先生は、共感疲労は瞬時にでも起きる点が違うとしています。

 腑に落ちないのでZhang YYらの論文を見てみます。

 

Compassion fatigue is the progressive and cumulative outcome of prolonged, continuous, and intense contact with patients (略). 

 

 共感疲労は、やはり徐々に溜まっていく。

 

 燃え尽きは?

 

Burnout is (略) response to job strain with feelings of frustration, powerlessness, and inability to meet work goals.

 

 挫折感、無力感や、達成感の無さなど、共感そのものではない感情でおきる。

 

 

 

 私の実感する共感疲労。

 

 教科書には共感は自分の価値観で判断せず相手に沿うことと書いてあります。

 でも私は人間が出来ていないので、時に「そう考えるか・・私はそう考えないけど」「それは独りよがりではないか・・・」など自分の価値観がどうしても反応し、(主に否定的)感情が湧きおこる。

 そしてそれらの感情を無理に抑えこまず、しかし黙って話を聞き続けていく必要がある。

 最終的になるほどそういうことかと理解できることがありますが(たいてい、そう)、その間、様々な感情が解消されないのは本当にくたびれます。

 書いていて気が付きましたが、感情というのは一種の緊張かもしれません。

 

 Compassion fatigueと私の実感の相違については少し考えます。

 

 

 

 メモ。

 共感の神経心理学的説明ではミラー・ニューロン説を使う(p104-105)。

 それは共感というより情動伝染emotional contagionではないか?

 

 副交感神経は2系統ある。

 腹側は普通の副交感神経系。

 背側は交感神経で対処できないストレス時に働き始める。

 機能の説明は本書では腑に落ちないので後で調べることに(p135-136)。

 

 土居先生の甘えも2つある。

 適度に応じてもらった甘えは自己肯定と関係。

 素直でない甘えは「妬む」「拗ねる」「僻む」「不貞腐れる」「ひねくれる」。

 拒絶的態度をとりながら察してほしいと考える(p148-150)。
 

  

 思いやる心が、特別に傷つきやすいものなのか、書かれていなかったと思います。

 これは宿題です。

 

 

追記:5月2日

 仕事場でPC整理していたら論文が(今年の初めにダウンロードしてました)。

Alharbi J et al.: The potential for COVID-19 to contribute to compassion fatigue in critical care nurses 2020 editorialです。

 

 どうもCompassion fatigueという言葉に引っかかっていたらしい(なんだよ、おれ)。

 塩漬けになっていたこの論文を読むと、compassion fatigueとburn outは、ほぼ同じ意味で用いられています。さらに両者ともに単なるoverworkではなく、personal toll人格的傷つきなのだと指摘されていました。

 

 あとなるほどと思ったのが、この論文でfront-line workersとかfront-line carersという表現があることです。Essetial workerって、私はいまだにぴんと来ないのですが、この論文のように「第一線で働く人(しかもわざわざ英語でなくて日本語でいいと思います)」でいいのではと思ったりします。

 どうでもいいことですが。

 

 

武井麻子「思いやる心は傷つきやすい パンデミックの中の感情労働」

1500円+税

創元社

ISBN 978-4-422-32085-4