トラウマというとたいてい認知行動療法(以下CBT)を使うことになっているが、私はこの方法が大変に苦手で、何か他にないか探していた。

 

 

 本書。

 心理教育なので、考え方や感情を変えるのではなく、心のメカニズムについて一緒に学ぼうというスタンス。

 なので、出来事そのものを扱わずにすむ。

 これはトラウマでは重要な点はないだろうか。

 いきなり「痛いところ」に手を突っ込まない。

 問題を微妙にずらして「痛いのはなぜか」を一緒に知る。

 

 しかも著者の方々の手作りのプログラムで、現場の必要性で作成されたという(p2)。

 理論先行ではないので、非常に実践的と思った。

 

 

 トラウマに限らず応用できそうな内容で、大江先生は特に「怒り」(p13)について留意されている。

 「怒り」のパートだけでも、パーソナリティーや発達の問題を抱えている方、何回も手洗いしてしまう患者さんなどに使えると思った。

 

 IQが高くはない患者さんに用いた例もあり、この方法の汎用性の高さを感じる(p30)。

  

 なるほどと思ったのは「子どもの悪夢に対する心理教育」(第8章)。

 子どもの悪夢をなぜわざわざ取り上げるのか疑問に思ったのだが、トラウマの症状としての悪夢のことだった。

 子どもの場合は苦痛を言語化できないので、漠然と「夜が怖い」「暗いのが怖い」(p97)と悪夢からずれた訴えになり、眠剤だけ処方して経過を見るなどのずれた治療になるかもしれないだけに、この項目の存在自体が勉強になった。

 

 

 第13章も興味深かった。

 何かと話題の多職種連携でスタッフ間対立が起きた時、ともすると”スタッフの相互理解が”とか”顔の見える関係が”など、治療グループのチーム形成ばかりに目がいって患者さんの問題が置いてぼりとなり、本末転倒ではないかと感じていた。

 このような方法もあったかと目から鱗だった。

 

 

 トラウマは何となく遠ざけていた領域なのだが、私の職域でいえば、ICUで治療を受けていた患者さんが身体治療そのものをトラウマと感じることがあり、やはり勉強しなければと思う。

 

 

 

 

 

 

大江美佐里編:「事例でみる心理教育実践 トラウマの伝え方」

2200円+税

誠信書房

ISBN 978-4-414-41683-1