輸入盤で年末に購入。
この人の名前、どう発音するのでしょうか。
ネットではクシシュトフ・ウルバンスキになっています。
かつてギュンター・ヴァントがNHKで「ワント」と表記されたり、あるいはブルーノ・ワルターなのかヴァルターなのか(これは後年アメリカに移ったからの混乱でしょうけど)決まってなかったりなので、名前の表記はもう少し待ちます。
なんでもポーランドの方だそうで、1982年生まれ。
だとすると、録音時(2017年)まだ35歳です。
しかし、春の祭典初演時(1913年)のモントゥーは38歳か37歳だったようです。
そう思おうと「全然、あり」です。
演奏ですが、とにかく聞きやすい!
無駄をそぎ落とした鋭角な音で、揺れないテンポ。
クリアで透明な作りです。
で、私的に大事なのが、とにかく、うるさくない。弱音を重視。
なので、演奏者に緊張感があるのか、アンサンブルが乱れず引き締まっています。
一方でデュナーミクのふり幅が大きく、フォルティッシモになるまでの音の膨らみ方が直線的でなく「ため」があるので、「うおー!!」とアドレナリンが出まくりです。
全体的に速めで、例の11拍子も速くてかっちょいい。
「春のロンド」の真ん中あたりの金管が崩れ落ちる(?)ように演奏する箇所は、佐渡裕さんが「何か巨大な生物が<うえー>と嘔吐するようにとバーンスタインは指示していた」とある音楽番組でおっしゃっていて、実際、バーンスタインも佐渡さんもこの箇所、結構、テンポを落としています。
しかし、ウルバンスキはここをささっと演奏させる。でもデュナ―ミクの幅のおかげで迫力はちゃんとあります(You tubeのインタビューでウルバンスキは「何かがexplosionするイメージ」と言っていて、そういう演奏になっています)。
さらに通常だと金管が邪魔する箇所も、木管や弦がよく聞こえるので、主旋律(・・・なんて無い曲なので「一番目立つ」旋律というかリズム)の裏で内声部(・・・なんて無いので、普通聞こえにくいパート)が上下方向に引き裂かれた運動をしているとか、木管と弦が同じ音型を少しずれたリズムで演奏し、金管がその倍くらいのリズムで支えているなど、構造がよくわかります。
「春の祭典」の自筆譜をテレビで見たことがあるのですが、ストラヴィンスキーはパーツを思いついて、それを方向も場所もばらばらに断片を書き散らかしていたようです。
おそらく、それらを組み合わせるようにして完成させたのではないでしょうか。
その作業は、果てしなく数学的で、5拍や7拍などの変拍子と譜割をどう「つじつまをあわせるか」という、方程式を解くような性質のものだったのではないかと推測します。
この演奏は、私の勝手に想像するストラヴィンスキーの方向性に一致している気がします。
要は「野獣的」とか「土着的」とかでない、「数学的な印象」。
「春の祭典」はもともと「生贄」というタイトルだったそうですし、キリスト教前の土着宗教をイメージしているので論理性と正反対のもののようですが、論理性を無視して西洋音楽を作ることはできないわけで、この演奏はそのぎりぎりの線をしっかりと聞かせてくれていると思います。
かといって、その種の演奏にありがちな冷静で冷たい演奏ではない。
ラジオか何かで聞いた、ウルバンスキさんとどこかのオケとのベートーヴェンの交響曲第3番は、そんな演奏でした。
ベートーヴェンだけど重たすぎない。快速で明朗。低音を響かせ過ぎない。
ただ、若い方ですし、曲によって、あるいはレコーディングと実演で違うことは往々にしてあることですね。
この盤だけではわからないので、いつか、実演を聴きたいなと思います。
私的にはちょっと期待の指揮者さんです。
まだ、髪の毛ふさふさだったパーヴォ・ヤルヴィが東響でショスタコーヴィッチ(かラフマニノフ)の交響曲を演奏したのを聞いたようなのですが(すっかり忘れていて、本棚からパンフレットが出てきて驚きました)、あの時、今のような指揮者になるとは全く思いませんでした。
印象に残らない演奏だったのでしょう。
ウルバンスキさん、ブルックナーかシベリウスを面白く演奏してくれる指揮者になってくれるといいなあ。
ここ数年、若い指揮者の方がどんどん出てきていて、なかなか名前が覚えられませんが、クラシック音楽界、まだまだ楽しめそうでありがたい限りです。
「Igor Stravinsky Le Sacre Du Printemps」 Krzysztof Urbansky指揮 NDR Elbphilharmonie Orchestra Alpha Classics 2017年録音