シャリーズ・セロン主演、なんか面白そうと、なんとなくレンタル屋で手にとったDVD。
DVDケースの作品紹介には「子育てにくたびれ果てた女性が子守の女性と出会って変化していく」と。
てっきり「大人版メリー・ポピンズ」のようなファンタジー的なものかと思いながら、家内と観ていた。
しかし・・・・
子育て中心の生活にくたびれ果てている、主人公マーロ役のシャリーズ・セロンの演技に圧倒されつつ(体型が私の隣にいつもいるお方のようになっています。とてもハリウッド女優さんのそれではない・・・)、悪い人ではないけど奥さんの「口にするほどではないけど微かな」不満に気付いていない夫。
極め付けは、旦那さん、赤ちゃんを出産した後、奥さんが明らかにぐったりして元気がないことに気が付かないまま、終盤、「妻はずっと元気でした」と言ってしまう。
ああ、しまった!
家内と一緒に見る映画ではなかった・・・・・
片付いていないおもちゃを素足で踏んだ時(思ったよりもむちゃくちゃ痛い!)の持っていき場のない怒り・・・・・ああ、子育てあるある。
生まれたての赤ちゃんのお乳、おしめ、お乳、おしめ・・・・・・・・(傍で見ていたのでわかります・・・)
どんどん何で汚したからわからない染みですすけていく家・・・・・・ああ、あるある。はい、我が家がそうです。
そして、仕事で疲れ果て、ストレス解消に心を「無になるため」にずっとシューティングゲームをしている夫(←これは脚本の女性の方も理解なさっていないのでは。別にゲームで「遊びたい」んじゃないんですよね。「心を空白にしたい」んですよ、男は)、そして、赤ちゃんが泣いても不思議と起きずに横で寝ている夫・・・・・・・あー・・・・すいません・・・・私もそうでしたね・・・・・。
子育て中で自分のことが後回しになっている時の女性が、「どんな言葉をかけてほしいのか」「どうしてほしいのか」がよーくわかる映画でした。
見終わた家内。
「これ、女の人より男の人が見た方がいいよね」(グサッ)
「だって、こういう映画に共感する時期に女の人は映画館に行けないものね」(グサグサッ)
はい。
私も一番下の子が生まれる前に見ればよかったというのが感想でした。
ちょっと違った角度から。
NunnyとしてくるタリーTullyさん、あまり聞いたことのない名前だなと思ったのですが、それにも増して不思議だったのが、前半いつも緑色の服を着てくること(コートとかインナーとか)。
ある重要な場面だけは赤いセーターで、さらにその日は黄色い(橙色?)ある服に着替える(翌日にマーロの息子が見ているテレビに、赤いエルモが黄色の友達を迎えるシーンがちらっと出てくる)。
緑といえば、アイルランド。
調べてみると、確かにTullyという地名がアイルランドにあるし、モンゴメリー・タリーというアイルランド系の女性映画監督がいたようですので、たぶんアイルランド系という設定なんでしょうね。
で、アイルランドの国旗の意味。
緑は過去。そして橙色は新しさとか、未来という意味なんですね。
もう一つ。少しぼかして書きます。
息子のジョナくんは明らかに自閉症のような様子(視線が合わない、順番や場所がかわったり大きな音を聞くとパニックになる、繰り返しの運動がある)なんだけど、「3人のspecialistsに見せたけど分からない」「emotionalな問題を抱えている」と映画の中ではなっていて、おや?という感じ。
公式HPのあらすじでそうなっているので、私の見間違いかなと思うけど、あるワンカットがあって、私が思うにお子さんは「3人目」でないと思うんです。お兄さんに「3番目」と言われて、一瞬、マーロはぽかんとするし。
彼女がどうして、あんなにいつもだるそうなのか、気力を失っているのか、ジョナくんだけの問題ではないのではないかと。
あるいはジョナくんのあの様子は、おそらく「その一件」以来のマーロの家での様子やジョナくんへの(無意識で悪意はないのだけど・・)態度などに関係したのではないかと思ったりします。
そう思うと、ラストは一層、感動的な感じがします。
他には、ブルックリン(アイルランド系が多く住む町ですね)へ繰り出す車で聞いている音楽が1980年台のもので、私ら世代には懐かしい。これらが伏線になっていますが、そういうことはどうでもいいかなと思います。
映画好きの方なら、すぐに「ははーん」と思うだろうから。
伏線の一つなんだけど(そうでないとしても)、ジョナくんの「昨日、ラクダの夢を見たよ」に私はちょっと笑いました。
もう一つ、些細なシーンですが、お兄ちゃんのお嫁さんがどうやら日本人で、マーロのいう冗談(「船みたい」とかいう)の意味が分からないところ。
マーロが「どうでもいいんだけど・・」という雰囲気で、一々、冗談の背景にあることを説明するけど、お嫁さん、結局、よくわからないままに笑ってごまかす。
本筋とまったく無関係ですが、ああ、なるほど、と。あちらの人からみると「ごまかし笑い」がこう見えるのかと。
なんだか「バカにしている」ように見えるんです。
気を付けないといけませんね。
悲しいというか、切ないのが、冒頭の人魚シーン。
映画の途中で人魚の漫画がちらっと映る。
多くの童話が「結婚して幸せに暮らしましたとさ」で終わるけど、そうなの?という問いかけがあるのかもしれません。
それと、人魚姫が「何」を隠喩しているか。
さらに、人魚姫はアンデルセン版では、人魚姫が泡になって消えた後も、実はまだ続きがあります。それとこの映画の関係は。
最近のハリウッド映画は、なんだかコミック原作とかリブートとか続編ばかりの印象がありますが、こういう面白い脚本の作品も生み出している。
さすがですね。
最後に私的に怖かったセリフ。
「忘れないの!女は絶対に忘れないの」(確か、その後「傷をコンシーラーで消すの」という名言が続くと記憶しています)
あ、あのー、やはりそうでしたか・・・・お、お許しを!
ジェイソン・ライトマン監督「タリーと私の秘密の時間」 (原題 Tully)
2018年 日本公開