只今、世界一周旅行中の日記のなかから、キリマンジャロ登頂期間(全13回。の予定)のものに加筆して、掲載中です。


無事?!登頂を果たし、残るは地上への下山。
おうちに帰るまでが遠足だから、気を抜かないで行きたいけれど・・・
みなさまもう少し、見守ってください。




2002年11月16日

第五日目 大雨に打たれて

 キリマンジャロ登山ツアー最終日。
朝、ハットを出て冷たい水で顔を洗っていると、
「サミットに行ったの?」
「何時間かかった?」
「昨晩何時に戻ったんだ?」
と欧米人グループから矢継ぎ早に質問攻めにあった。ミン曰く、どうやら昨夜の夕食の話題に、「あのジャパニーズガールはウフルに行けたかどうか」が上がって波紋を呼んだらしい。

「I’m Winner.」
とガッツポーズ腕。すると皆一様にものっすごい形相で驚いたあと、
「Congratulations!!!!」と言ってくれた。
私はマタタの言ったとおり私は" Iron lady!!!”になれたかも。

 朝食を終え、身支度も整えた。ミンも当初の予定を変えて私たちと一緒に下山することになった。ずいぶんと軽装になっちゃったな。嬉しいような、寂しいような。

 ホロンボハットを出発して元気に歩き出したはいいが、アレレ?膝に力が入らない。下りは膝がイカれると悲惨なことになる。だけど湿布薬もサポーターも何も持っていないし。だましだまし歩くが、そうそう1本のステッキだけでは膝をカバーしきれなくなっていった。

 追い討ちをかけるようにマンダラハットを過ぎた頃から大雨になった。レインジャケットを急いで羽織るが、全然役に立たず下着までビショビショ、革靴も浸水。そのうちザックも浸水し、中の衣類が水を含んで重たくなってくる。ジャケットの中は蒸して不快度200%だし、靴はジャボジャボいって長靴より歩きづらい。最終日にして、この仕打ち。あぁ、偉大なるキリマンジャロ。山頂の氷河から、ふもとは熱帯のジャングル、地球上のすべての気候が体験できるとはまさにこのことだったのですね・・・。

 雨は一層激しく降り続けて、身体はどんどん熱を奪われて、誰も会話しない、さびしい下山となった。足元ばかりをひたすら眺め続けてモクモクと下山した。思えば、この時が私はクライマーズハイにかかっていたのかもしれない。身体疲労は間違いなくピークに達していたと思うのに、どんどん降りたくてしようがない。おかしな話だけど・・・。

 沈黙のまま、周りがパッと明るくなったと思ったらゲートだった。さすがにこの時、夫も私もミンも笑顔がにじみ出たのだった。 すっかりずぶ濡れでコンディションは最悪だけど、この微笑は身体の芯からあふれ出る喜びだった。

 ゲートでマタタが手続きをしているあいだ、洗面所でできる限り着替えた。もう気にしてられないので乾いてるものをとりあえず身に着けた。ひと息ついたところで、気づくと雨は上がっていて、雨に濡れたいろんなものを柵にかけて干しながら迎えの車が来るのをしばらく待った。

 ホテルに戻ってきた!ついに遠足も終了!いよいよクルーともお別れ。夫は快くチップを一人ずつ手渡した。ところがなかに、それを持ってマタタに泣きついた奴がいた。「金額が少ない!」と言うのだ。ハテ???「良く顔を見てやってくれ」とマタタ。



んんん・・・・あっ間違えたガーン汗




 夫が自信をもって深い感謝の気持ちとともに少し金額を多くあげたクルーは、夫と一緒にウフル登ってくれたアシスタントガイドではなく、クッカー(料理人)だった。私が「ねぇちょっと、違う人じゃない?」と教えてあげたのに。大失態だ。でも「オレ達の顔はコンフューズ(混乱)してる!」と言ってマタタたちは大笑い。

 そういうマタタも、かつて共にキリマンジャロに登ったSの写真を私たちが見せたとき、別の人物を指差して高らかに「オー!マイ フレンド、S」と言っていた。彼にとっては日本人の顔がコンフューズド状態なのだ。それにしても、私を目の前にして「イッツ ユー音譜」と堂々と別の女の子の写真を指差したのには、心の底から大変なショックハートブレイクを受けた。

 5日ぶりにシャワーですっきりして落ち着いた夕刻、部屋で寝ていた夫の様子がおかしいと思ったら、発熱していた。けっこうな高熱だった。知恵熱?疲労?今日の雨の下山はホントにシンドかったしね。私も疲れてはいたけど、借りものや衣類を洗面所で洗い、約束の時間にミンと食事に行った。

 お互いにお互いの母国語がわからないので、私はヘタなジャパニーズイングリッシュで、ミンはコングリッシュ(韓国なまりの英語をそう言うんだって!)で山を振り返って色々話した。一緒に山をがんばった同志、なんとなく相通ずるものが生まれた。ミンのポラロイドで一緒に写真を撮ってもらった。ミンは韓国の金色のブックマークを記念にと、くれた。

 好きなイラストの仕事をして、作家だという彼氏とゆくゆくは絵本を作って、将来は語学留学したいという夢もあって。ステキな人生を歩んでいるなぁ、ミンは。いつかまた、会いたい。

 翌朝、私と夫は韓国に帰るミンの出発を見送った。
 キリマンジャロの登山で、得たものはとても大きかった。




お稽古の極み

妻をおいて、ウフルピークに立った夫(笑




お稽古の極み

その数時間後、ウフルピークにヘタリこんだ、妻(爆





(日本を出発してから509日目)




最終話へつづく・・・