只今、世界一周旅行中の日記のなかから、キリマンジャロ登頂期間(全13回。の予定)のものに加筆して、掲載中です。

富士山の高さを超えた地点から3日目の出発、これからが本当の厳しい山登り!




2002年11月13日

第三日目 キボハット(4703m)へ、そして別れ

 6:30朝食。
快調、とはいえない体調だけど、とにかく今日が山場。

 雲海に上っていく朝陽は格別に美しく、荘厳な空気のなかでピーンと張った緊張感が一瞬和らいでいく。この感覚を味わえるのは、やっぱり大自然のなかでしかない気がする。世界を旅し始めて体感した朝陽の温度、色、輝き・・・・・・、アメリカのグランドキャニオンや・・・ペルーのマチュピチュ・・・ボリビアのウユニ塩湖・・・、チリのイースター島・・・、パタゴニアのグレイ氷河・・・、ヨルダンのペトラ遺跡・・・エジプトのシナイ山・・・多くのデジャブが浮かんでは消え、浮かんでは消え、その度に苦痛と快感の記憶が交互に蘇る。明日のご来光は、拝むことができるだろうか・・・・。

 歩き出してすぐ、空気が吸いづらいとモロに感じる。ちょっとした上りも息がすぐ切れる。ミンもペースが落ちてきた。マタタはずっとミンに添うようにして歩いている。私も夫も会話がそぞろになり、頭の中を空っぽにして、ひたすら歩くよう努める。ここでヘバっては今夜のアタックにヒビいてしまう。

 気がつくと周囲の景色が変わってきた。湿原地帯から岩場、土のみの殺風景な地となり、容赦なく強風が吹く。そのうち、アラレも降ってきた。寒い。ただただ先の長いゆるい上りが続き、疲労感が増してきた。歩いても歩いても、全く進んでないような気がして精神的に苦痛になってきたのだ。

 6時間30分かけて、やっとキボハットへ着いた。もう泥疲れ。記念写真の作り笑顔が、唯一の笑顔となった。残雪がなんと恨めしいことか。ここのハットは大部屋だ。先に到着していた欧米人グループはすでにTea time。くつろいでいる雰囲気がまた恨めしい。




お稽古の極み





 最悪なことに、ハットに到着してほどなく本格的な雪になった。激寒。トイレに行くだけでぜいぜい、ハアハア。手が凍えてパンツの上げ下げすらキツイ。一つの作業にいつもの倍以上かかり、余計にいらだつ。空気が薄いからか、高山病にかかっているからなのか、と考えること自体もめんどくさい。

 あ~ストーブ欲しい・・・。
と言っても、こんな標高の山小屋にはない。仕方なくガマンして大部屋の2段ベットの上の段を陣取り、寝る。寝るといっても、ただ目を閉じているだけ。息をするのに肩を使い、寝返りの衣服のこすれる音やわずかながら体内に入る空気の音までが耳障りに感じ眠ることができない。そしてそれもまた、ストレスとなってしまう。体力を温存しても、神経がピリピリして精神的に消耗して、ただ時が過ぎるのを待つ感じだ。他のベットの上でも、同じような状態に陥っている人はどれだけいただろうか・・・。

 17:00pm過ぎ、なんとなく目を覚ますと、ミンが私の名前を呼んでいる。「どうしたの?」とベットの上からミンのベットを覗き込むと「あたし、山を降りたい・・・」と言い出した。体調がものすごく悪いのだと言う。暗くてはっきりとは見えないが目にはチラチラと涙がにじんでいた。「一緒にサミットへ行こうよ!」と励ましたが、結局、マタタと話をした結果、ミンは高山病と判断されすぐ下山することになった。欧米人グループでも若い女性が一人、ベットの上であえいで苦しそうにしており、程なくポーターたちがタンカに移し部屋を出て行った。ミンは、「2人をハットで待ってるから必ず頂上へ行ってね」と言い残して、ポーターに負ぶさって下山して行った。

 切ない、別れだった。

 11:00pm、緊張の糸がにわかに張り出した。皆、出発の準備を整え始めたのだ。良く見ると欧米人の衣装、装備は完璧だ。当たり前だが彼らは「登山」しに来ているのだ。それに比べ自分は知識も経験も、間違いなく体力も劣る。・・・このコットンのTシャツを着るのは自殺行為じゃなかろうか・・・?でも、これしか着るものがない。観念して2枚重ねて着た。それに、ホッカイロをお腹と腰、両足にも貼った(後にわかったことだが、高所ではあまりにも空気が薄すぎて酸素が少ないため、ホッカイロは暖まらなかった。私の貼ったカイロは返って手足の動きを鈍くし、体力を消耗を早める要因になってしまった)。欧米人は、ちゃっかりつま先用のミニホッカイロまで持っている。あったかそうなダウン、手袋に帽子。頭から足の先まで隙がない。ウゥーーー・・・。悔しい、装備で差がつくなんて。でも負けるもんか・・・、いやいや、生半可な装備では命を落とすかも・・・だ。

 でも、ここまで来ちゃった。行くしかない。

 11:30pm、食欲はまったくないがレモンティを飲み、ビスケットを無理やり食し、夫と、マタタとアシスタントガイドと4人で暗闇のなか山小屋を出発した。


いざ、サミットへ・・・・!?

 



(日本を出発してから506日目)



つづく・・・





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