あまりに可哀相だ…。山南は悲痛な表情を見せて着流しの裾を握りしめた。「で、あと一つ。左之、お前ぇ、紫音をやった奴の顔は見たのか?」くるりと体を反転させて、土方が原田を見た。「いや、はっきりとは…。でも総司は対面したよな?」忌ま忌ましげに答えた原田は沖田に振る。また一斉に沖田に視線が注がれた。「…長州の者だと思います。着流しを着ていて…月代に垂らした髪。顔は…」「よし、とりあえず話はわかった。そいつを探れ。新ぱっつぁんと平助は後始末を頼む。山南さん、源さんは念の為隊士に警戒するように伝えてくれ。左之、お前ぇは腕冷やしとけよ?」「わかりやした。平助、行こうぜ。左之、避孕藥月經調經休めよ?」「あ、うん。じゃぁ行ってきまーす」「では我々も…」土方の指示に、次々と席を立つ幹部たち。そんな中、原田はうなだれたままの沖田に詰め寄った。「総司、お前何のんきに座ってやがんだよ?」決して呑気な気分ではない沖田は何も答えない。それに苛立った原田はぐいと袖をまくり上げた。「見ろよ!これは紫音が痛みに堪えた証だ!」まくり上げた腕にはくっきりと手の跡がついていた。すでに色が変わっている。見せられたその跡は、紫音の苦しみがありありと伝わってくるもの。沖田は八の字に眉を曲げ、泣きそうになった。「俺が腹斬った時はなぁ、自慢じゃねぇが痛みで気失ったよ!!それをあんな女子が堪えて…情けないぜ俺は!!」「…話変わってるぞ?」「あーもう!違う!!俺が言いたいのは!!」突っ込まれた原田は言いたい言葉が出て来ず、沖田を肩に担ぎ、もう片方の腕で斎藤を抱き上げた。そしてそのままドタドタと八木邸に連れていく。呆気に取られながら、近藤と土方は後をついて行った。バンッ足で障子を開け、勢いづけて沖田と斎藤を落とす。受け身の取れなかった二人は、したたかに打った頭や背中をさすりながら起き上がった。「いたた…」「原田はん…少しは静かにしたって下さい。傷に障るやないですか」いきなり現れた原田たちを、少し怒ったように言う山崎。が、すぐに状況を理解して立ち上がる。「ようやっと落ち着いたとこや。これから熱が上がると思うから看たっててや。俺は副長に話あるから」「おう」原田の背に隠れた土方を見つけ、山崎は目で合図する。理解した土方は一つ頷き、隣の部屋に移動した。やめて…やめて…―――見たくない…―――!!紫音は、闇の中にいた。自分の姿すらわからない程の闇の中…ゾクリと寒気がして自分を抱くように握りしめる。『ここは…私、死んだのかな…』何故自分が生きているのか…その理由もわからないのに、死を感じて恐れてる自分に苦笑する。『勝手だな、私も…』何人、何十人の人を殺しただろう。紫音は自分の両手を開いてみた。…が、開いている筈の手の平すら見えない。血に染まった自分の手も見えないなんて…

懺悔すらさせてもらえないのか…紫音は目を閉じた。開いても、閉じても変わらぬ漆黒の闇。まるで黒冴のようだと思った。その時、小さな光が紫音を照らした。『…何で…』光に照らされて見える筈の自分の体が見えない。紫音は訳がわからぬまま、光の差し込む方に意識をやった。