江戸川大学社会学部ライフデザイン学科 3年 田代 竜平


ゲスト・プロフィール

阪井 暖子さん

東京でのコンサルタント(地域計画建築研究所(アルパック)経験のあと、2000年より沖縄に移住。様々なまちづくりに関わってきた。

200710月東京大学まちづくり大学院に第1期生として入学。200910月より東京大学大学院工学系研究科都市工学科博士課程に在籍。


テーマ

「笑うまちぐゎーおばぁラッパーズとスローデザイン」

会場

(財)東京都中小企業振興公社 秋葉原庁舎 第4会議室

日時

2010520日(木)1845分~2100


概要

2000年から沖縄に移住し、「まちづくり一切」に関わってきた経験から考えている。地域の活性化についてお話していただいた。那覇の中心市街地の一角にある栄町市場は、日本でも唯一陸上戦が繰り広げられ焦土と化した沖縄でもいち早く立ちあがってきた市場である。しかし、沖縄でも郊外店の進出などにより衰退の憂き目にあっていた。そんな市場の活性化に関わり、地域の人たちと一緒に汗や涙にまみれながら格闘してきた結果、今、出てきている動きにまちや地域が元気になるヒントがあるのではないか。


ヤワラガンジー

皆さんは沖縄県をどのように理解、イメージしているだろうか。透き通った海、青い空、温厚な性格の人しかいない島等々・・・沖縄県には、ほかの県にはない魅力や文化がてんこ盛りである。しかし、そんな素敵なイメージとは裏腹に、男女のメタボ率や離婚率が国内第1位だという事実も。そして、離島という産業振興上アクセシビリティの悪さやインスティチュート率の低さも問題となっている。また、鉄道の文化がなく完全な車社会となっているため、排ガスなどによって空気がよどんでいるなど、移動手段が車のみのため激しい渋滞に見舞われることもしばしばあるという。持ち前の温和な性格が幸をそうして渋滞すら気長に楽しんでいるそうで、それが原因でいっそう渋滞になるとか・・・

 1972年まで米国統治下にあったということもあり、国土0.6%の県土面積のうち74.7%を米軍基地が占めている。米軍基地があることによって、道路が分断され、コミュニティが破壊されたケースもある。そのような現状になっても、いつも笑って暮らしている“しまんちゅ”たちの根底には“ヤワラガンジー”(柔らかくしていることが強いこと。という意味である)の精神がある。


栄まちぐゎー

栄町市場は国際通りを少し外れたところに所在している。あのひめゆりの学校の跡地でもある。まるで迷路のような過密で雑然とした密集市街地だ。百数十件ものお店が軒を連ねている。坂井さんと栄町との出会いは、東京で再開発事業を行っていた時の栄町市場のアンケート調査で、お店側と消費者側とのすれ違いに気づいたところから始まる。それは、消費者の減少で商売に自信がなくなり諦めかけている店側と、市場に行きたいが求めているものがない、仕事などで時間帯が合わない消費者とのすれ違いだった。ちなみに、テーマにもある「まちぐゎー」とは、沖縄の方言で市場という意味である。

「お金がないならアイデアと知恵をだす!」を、コンセプトに栄町マンスリーイベントを行い、このイベントが後の活動の卵となっていった。

例として、マチグワーライブとデザイナーズフリーマーケットを紹介したい。マチグワーライブとは読んで字の如く、市場で行われる音楽ライブで、密集地帯に簡易舞台を展開してそこで野外コンサートを開くというものである。デザイナーズフリーマーケットはデザイナー、つまり制作者が直接売るフリーマーケットで、それぞれ個性のあるアクセサリーやオブジェなど様々なものが売られている。これらのイベントには若者も多く参加し、若者を呼べるイベントとしても注目された。


卵たち

エコエコ実験という活動では、環境にやさしい商店街と銘打ってエコマーケットを開催、エコマネーと呼ばれる栄町で使うことのできる地域通貨も発行された。市場を環境学習の場として使うことによりリアルな現場を体験できる。空き缶を入れることによってゲームができる機械を設置して子供心をくすぐるような試みもおこなわれた。この、空き缶でゲームができる機械のおかげで、栄町に落ちていた空き缶がすっかりなくなったらしい。

また、町をにぎやかにするために、子供たちが原案した絵をコンテストし、選ばれた作品をシャッターにペイントすることで、閉まっていてもにぎやかな商店街を実現させることができた。


「らしさ」

 沖縄では居酒屋で出たジョークが真剣な話として実行されることがあるそうだ。その実例が今回のテーマにも出てくる“おばぁラッパーズ”である。構成員であるおばぁたちは当然のこと栄町の人たちである。居酒屋には居合わせなかったものの、酔っぱらいたちの想像に出てきたおばぁたちが抜擢されたらしい。すんなり結成した裏側には、坂井さんとの、栄町市場を昔のように笑顔でいっぱいにするという公約があった。面白いことをして人を呼び込むことが目的ではなく、そのさらに根本には栄町市場という文化の継承が目的としてあった。そのためにもマスコミに取り上げられ、いいように使われるのではなく、うまく手玉に取ることが大切だった。マスコミの影響力というものは恐ろしいものである。マスコミの都合のいいように加工され、誤った印象を与えるような伝え方をされないためにも「らしさ」を見失わないように、また自分の立場を見失わないように、一緒に走ってくれている人たちを常に意識して、自分の立ち位置を見誤らないようにしなくてはならない。ここでいう「らしさ」とは、決して華々しいものではない。たとえ地味でも、土着的であるものや、愛しくてたまらないもの、すべてを失ったとしても、どうしても手放せない一番大切なもの、感性そのものが「らしさ」なのである。


笑うまち

 今回のお話で、笑いのあるまちが住んでいていいまち、住みやすいまち、進化できるまちなのだと感じた。そして「らしさ」を失わないためにしていかなくてはならないことが少し見えた気がした。地域にある祭りやイベントに幼いころから参加して、体で伝統と文化を覚えていくこと、それを次世代に継承させていく刷り込み方式があるということ。今まで何気なく考えていたことの本質のような面を発見できた講演でした。