江戸川大学社会学部2年篠田卓馬

 

はじめに

今回のゲストは阪井暖子さん。笑うまちぐわぁー、おばぁラッパーズをテーマに混沌とした栄市場のエネルギーを使って、いかに地域再生へと進んで行ったのかについて、お話をしていただいた。


栄市場とは

栄市場は沖縄県那覇市の中心市街地の一角にある。戦後すぐに闇市として発達し十数年前までは料亭が5つもあるようなにぎわった市場だったのだが、車社会になりバブル経済も崩壊すると徐々に活気が失われていった。商店街は通りを中心とした形ではなく、面としてひと塊りになっているため、迷路のように入り組んでおり、東南アジアのような独特の雰囲気を醸し出している。

 

阪井さんと栄市場

 国土交通省の事業のモデル調査で栄市場地区に訪れたのがきっかけとなり、その独特の魅力に夢中になったという。はじめハードによる再開発事業を行おうとしたのだが、市場内の店舗主を対象としたヒアリング調査で、自信が無く店舗を続けるのは無理だという人が多いことが分かった。この状況で再開発事業を行うのは地域コミュニティーの崩壊を起こし、決してプラスの方向には結びつかないと考えた阪井さんは、ソフト事業である地域の活性化を行い、まちに元気になってもらおうと考えた。


活性化への道のり

まず最初の企画は「笑うまちぐわぁー」、これは中小企業のおじちゃん、おばちゃんの笑顔の写真をモノクロ写真集として出版したり展覧会を開くというもので、そこに行けば実際にその人に会えるという面白さがあった。

また「栄町ファンクラブ」という店主を会員に入れない、ヨソ者ワカ者バカ者の集まりを作り行政と連携して市場を活性化しようとした。

他にも市場内の道が複雑で忍者屋敷に似ているため「栄市場忍者祭り」という行事を行ったり、ファーストフードではなく地域の昔ながらの食べ物を食べてもらおうと、皆で調理して食べる「かめかめ!ふるまい」などたくさんの行事、企画を立てまちの活性化へと邁進していったのである。


おばぁラッパーズ

 特に盛り上がったのが「栄市場おばぁラッパーズ」で、ミュージシャンが多いこと、ウチナーロ(沖縄ことば)がラップに合うこと、何よりおばぁの日常の会話・行動が面白いことからそれをラップにしてみてはどうかと目を付けた。歌詞はおばぁたちにその場で考えさせた即興のもので、録音は町内という土着的な活動だからこそ、マスコミがやってくるとその特異さが新鮮なものとなり、ラジオ局やNHK、TBS、アド街にも出演し人気は一気に爆発した。

 しかし「あんたいい気になって」とたしなめてくれる人がそばにいるため、足は地面に着いたまま。スローフード運動と同じように日常を素材とし(地域にあるものを使う)、音楽にする人、演ずる人がいて(地域で活動する人を守る)、市場で楽しむ(子どもたちに伝えていく)、という活動ができると、他の地域のものを使わないので景観が暴れず、その地域独自のものが育ってくる。


「らしさ」というもの

きらきらとしたものでは決してなく、真剣にやってもどこか恥ずかしさが残る部分が「らしさ」というものである。その「らしさ」というものを認めず、無駄だと排除し均一にしてしまった今の社会は無縁社会と呼ばれ「あそび」が無い。しかし子どもにはとても個性(らしさ)がある、それは子どもが「あそび」の天才だからである。


私の「らしさ」

私は自分の「らしさ」を出すことに今とても抵抗を持っている。いやむしろ「らしさ」というものが分からないでいる。人に勝つために、恰好をつけるために、世間が認めるから、それのどれとも「らしさ」というものが違うというのなら、それはきっととても楽なことではないだろうか。今の社会はなぜこんなにも自分を出すことに憶病なのだろうか。それを説明するのに「責任」という言葉を私は聞いたことがある。失敗したらダメだ、責任を取らなければならない。それは確かにそうである。しかしそればかりに縛られていては人は何もできなくなるのではないだろうか。

私は「私らしさ」というものに責任を持ちながらも、自らの足で進んでいける人間になりたい。そのためには様々な体験をし体と心を通わせ、心の奥にある芯を育て、少しのことではへこたれない、深みのある人間になりたい。