江戸川大学社会学部ライフデザイン学科2年 池谷 ひかる

 

 今回は食育についての活動を行っている『バッタクラブ』という団体の創立者である川畑輝子さんによる貴重なお話を伺った。そもそも、バッタクラブという団体は、どのようにしてできたのか?また食育とはどのようなことなのか?

■食事は楽しくするもの

川畑さんはもともと管理栄養士の資格を持ち、歯科医師である夫と結婚したのを機に歯科助手として働くことになる。歯科で働いている際、管理栄養士の資格を持つことから、食に関して虫歯がある子供の親から様々な質問や意見を聞いていたそうだ。そのような意見の中で川畑さんが衝撃を受けたものがあった。

それが、『そもそも虫歯は物を食べるからできてしまう。だったら食べ物を食べなければ虫歯にならないのではないか』という意見だ。確かに虫歯は多くの食べ物に含まれる砂糖などが原因でできてしまうものである。そのため、体を作ったり動かしたりするために必要な栄養素をとれるサプリメントなどを摂取すれば健康面では支障をきたさないかもしれない。しかし歯はもともとものを食べるために存在するものだ。それに食べることの喜びを感じることのできない毎日は楽しくないのではないか・・・川畑さんはそう考えた。

また、ある研究で、食事をする際、お茶を一緒に飲む子供は、そうでない子供に比べて栄養バランスが良いという結果が明らかになった。お茶には栄養素がほとんど含まれていないのに、なぜそのような結果になったのか。それはお茶を飲みながら食事をしている人は、誰かと一緒に食事をし、食事は楽しいと感じている人が多いからだと川畑さんはおっしゃっていた。実際楽しみながら食事をする方が、栄養素を体内に多く取り込むことができそうだ。お茶があるところに人々は集まり食事を楽しむ・・・お茶は人と人とをつなぐ接着剤であるのだ。そこで川畑さんは自分がそんななお茶のような役目ができないか、と考えた。そのような役目を果たすために誕生したのが『バッタクラブ』である。

■バッタクラブの活動

 バッタクラブは、まず児童センターで坂戸市に訪い掛けて市民館を借り、そこで子どもクッキング教室を始める。その活動では子供たちを集め、『今まで自分たちが食べていたものは、何でも自分たちで作れるのだ』ということを知ってもらうため、チーズやうどんなどを一から作り、おいしくいただいたそうだ。またソーセージを作った際には、実際に養豚場に赴いたのちに豚肉を腸に詰めるという本格的なソーセージを作り、どのようにしてソーセージが食卓に運ばれるのかを子供たちに肌で実感してもらったそうだ。

 また、これ以外にも田んぼで田植えをする活動も行った。どのようにして稲が育つのか、そして、その稲を育てて収穫することがどれだけ大変か知ってもらうためである。また田植えの際、害虫駆除のために鴨を田んぼに放つ。その鴨に水浴びの仕方や羽の乾かし方を教えてあげるのも子供たちの仕事だ。しかし、そのようにかわいがって育てた鴨を、なんと稲刈りが終わった後に殺して食べてしまうのだと川畑さんはおっしゃっていた。

この話を聞いてとても残酷な話だと思った。だがこれは決して間違ったことではない・・・しょうがないことなのだ、と川畑さんは語った。命が消えていく瞬間は、『ごめんね』と『美味しくなってね』という感情が交差し子供たちは複雑な表情をするが、最後は皆おいしく鴨を食べたそうだ。私たちは普段当たり前のように肉を食べて生活している。しかし、その裏では、誰かがこのような仕事をやってくれているのだ。このことに気付いてもらうためにあえてこのような活動し、家庭で子供と親が『どうして鴨を殺して食べなければならないのか?』そして『そもそも食べるって何なのか?』ということを、話し合ってもらえればうれしいと、川畑さんはおっしゃっていた。

■『当たり前』は、実は一番大切なもの

 食べるという行為は一人で行っているのではない。そして自分の健康は自分一人が管理しているわけではないのだ。食物を栽培したり、加工したりしてくれている人はもちろん、その食物を育む水や土や太陽光すべてが自分に関与しているのだ。自分の体を守るのは自分であることは間違いない。ただ、たくさんの環境や自然や動物が健康でなければ自分も健康ではなくなってしまう。

このことに気づいた時、今まで自然や動物は、自分には全く関係ないという考えを抱いていた自分を恥じた。私は今まで感じたことがないだけで、実際はたくさんの人や物に守られ、育まれて生きてきたのだ。それは私が物を食べたり健康な毎日を送れたりできるように日々働いてくれている両親、一緒に楽しい食事をしてくれる家族や友人、そして、そんな『食』にかかわってくれている多くの人や物である。

『食べる』という日常的な行為は、実はたくさんの感謝をしなければならないことだったのだ。まずはそのことを頭に留め、心をこめて『いただきます』を言うことから始めよう、とこの講義を受けて思った。

 私たちの生活の中にあるたくさんの『当たり前』は、実は一番大切なもので一番大事にしなければならないものなのである。そしてその当たり前は、私たちが知らないだけで、また知ることを避けているだけで、陰に隠れている多くの努力や苦労があるからこそ成り立っているのだ。そのことを知ることは衝撃だったり、つらかったりするであろう。そしてそのことを教える側もまた、同じ思いを感じるに違いない。しかし、子供たちのことを考えて、食育指導を自ら行っている川畑さんに感銘を受けた。きっとこのバッタクラブは多くのことを子供たちに教え、また波及していくだろう。

今回は貴重なお話をありがとうございました。