江戸川大学ライフデザイン学科2年 伊藤華緒里

 

今回のローカルデザイン研究会では、畠山重篤氏にお話を伺った。畠山氏は、気仙沼で牡蠣・ホタテを養殖し、「森は海の恋人」を合言葉に植樹運動を行っている。このレポートでは、その素晴らしい活動を記し、感想を述べる。

 

◆「森は海の恋人」

畠山氏が、漁師であるにも関わらず、森に木を埋め始めたのはなぜだろうか。

1970年前後の夏、赤潮が発生したことにより、海の生物たちは多大な影響を受けた。海藻、魚、さらには牡蠣の身までも真っ赤になってしまった。このことがきっかけで、自然について学び始め、結果、豊かな海のためには森と川が重要だということを確信した畠山氏は、森に木を植え始める。しかし、「なぜ森の木が大切なのか」ということは畠山氏自身もよく理解出来ていなかった。

そんな時、海藻や植物性プランクトンの生育には水中の鉄分が重要だということ、また、鉄分は川の水で陸から運ばれるということをテレビで知った。このことを具体的に「ブナの木」を例に挙げて説明する。

樹齢100年のブナの木は、30万枚の葉を付けそれらを毎年地面に落とす。落ちた葉は分解され、腐葉土になる。腐葉土の下で空気の通いが悪くなり、土の中の鉄が水に溶ける。このような過程を経て、この鉄は川を通って海へ流れていくのである。

今まで畠山氏が行っていたことが科学的に実証された瞬間である。海にとって、森はとても重要な役割を果たすのだ。

 

◆子供たちへ

畠山さんは、上記に記したように、森に木を植える活動だけを行っているわけではない。海と森との繋がりを知ってもらおうと小学生を対象に学習の場を設けている。そのきっかけになったのは、「子供たちが海に接する機会がほとんどない」ということを耳にしたことだ。体験を終えると、「1回のシャンプーの量を減らそう」「ゴミを排水溝に流さないようにしよう」など、子どもたちの環境に対する意識の変化が感じられた。

「山に木を植えても育つのに50年はかかるが、人は20年で育つ。人を育てる方が早い、だから教育が大切」と畠山氏は語る。言葉の通り、現在では畠山氏の活動が教科書に掲載され、大勢の子どもたちに伝えられている。

 

◆温暖化を防ぐ

 海は、温暖化を防ぐ役割を持つ。昆布やアオリなどの海藻は光合成を行っているので、CO2を固定する効果がある。「日本は海に囲まれた島なので、海藻が育つ環境を作ることで、CO2の削減は期待できる」と畠山氏はおっしゃった。また、昆布を育てるのに森林を破壊する必要がないのも魅力的だ。

その昆布を育てるために重要な役割を果たすのが、「鉄」である。植物プランクトンや海藻が水中で光合成をするためには、イオンになった鉄を体内に取り込まなくてはならない。その鉄を増やすためには畠山氏が行っていた、「森は海の恋人」の活動が必要不可欠なのである。「本当に温暖化を防ぐならば、海に森を作るしかない」と畠山氏は語る。

 

◆1人1人が考えるべき

今回学んだ海と森の切っても切れない関係、どこかで問題が起こるとそれがほかの所に繋がってしまうということ。これらは私たちの行動にも該当するのではないだろうか。

私たちの日々の生活の中で出してしまう生活排水。洗剤、シャンプーなどという生活に必要なものが、川、海へと流れていく。まさにこの問題が該当すると考える。少しでも良い方向に向かわせるには、私たちの意識を変える必要があるだろう。

メディアで取り上げるという手もある。実際、今も温暖化の防止策として、「エコバックを持参しよう」などというCMが取り上げられているが、それだけでは問題の深刻さを把握することが出来ない。そのため、実際に現場に訪れることが一番であると考える。上記にも記した通りだが、子供たちも自らの足で現場に行ったことで、環境に対する意識の変化が得られたのであろう。多くの人々にそのような場を設けることで、何らかの変化が生まれる。「自分に直接降りかかってくる」という問題ではないという、甘い考えを無くすことが必要である。

 

◆得たもの

 お話を伺って、畠山氏は心から故郷が好きなのだと感じた。そして、自然も大好きなのだと・・・。「海は森の恋人」という活動に参加している人々も、みんな畠山氏と同じ気持ちなのであろう。だからこそ一生懸命になれる。

このように活動を行っている人々同士の団結力の強さ。これは、地域のことを学びはじめてから毎度毎度驚かされる。それは私自身がそのような「一致団結」を経験していないからであろう。何かに向かって協力し合い、行動することを私たちも忘れてはいけない。

そして何より心に響いたのは、畠山氏が自身の仕事、「漁師」にとても誇りに思っていたことである。私も近い将来、大学を卒業し社会人の道へと進む。その時は「心から誇りに思えるような仕事」に就いていられるよう、日々頑張っていきたい。