ライフデザイン学科 2年 山本 祥弘

 今回、LD研究会は「森は海の恋人」という植樹活動から海の資源を豊かにするといった活動を始めて20年という節目の年になる漁師・畠山 重篤氏を迎えて行われた。政治・教育・環境・エネルギーなどあらゆる分野を縦割りでとらえ、他分野とのコラボレートが実現することが困難になっている今日の日本では、同氏の漁師という枠を超えた活動はとても珍しく先進的な活動だと言える。
 同氏は、海の魚介類を豊かにするためにその海に流れる川を、そしてその川をさかのぼった山の自然(森)が豊かであることが欠かせないポイントだと話していた。そこで漁師でありながら山に木(落葉広葉樹)を植え、海をきれいにする「森は海の恋人」という運動を始めたと言う。
 ではなぜ、山に木を植えることで海が豊かになるのか?それは落葉広葉樹が秋から冬の始まりにかけて葉を落とすことで地面をフルボ酸(クエン酸,酢酸など)が多く含まれた腐葉土に覆われ、地中内が酸欠状態になり鉄がイオン化する。そして地中内の鉄イオンがフルボ酸と結合し有機化(キレート化)することで小さな分子を形成し水に溶けやすくなり雨などで川に流れていく。最終的にはそういった豊富な栄養が含まれた水は海に流れ、海の食物連鎖に欠かせない植物プランクトンの栄養となり海が豊かになる。
 しかし科学的な根拠やそれに準じる活動だけで森と川と海が豊かにならない。実際、山に植樹活動を始めて数年は成果があまり表れなかったらしい。このようなとき畠山氏によれば、その土地に住む人たちに『日常生活で海をきれいにする』という意識を持ってもらうことがとても重要であると話していた。そこで普段から海を身近に感じてもらうために、小学生などを対象とした森と川と海の関係について体験学習を通して説明し伝える活動を始めた。この活動により植物プランクトンがいかに大切で森に木を植えることが必要なのかがより効果的に伝わったという。子供に浸透するとその親に伝わりいずれは行政に伝わり地域に広まる。結果、地域全体で森と川と海の関係が意識化され価値観の共有が実現されてき植樹の成果が表れたと言う。
 今回の研究会においてその地域に住む人たちの価値観や意識の共有がその地域の発展に大きく作用することが分かった。また専門の分野にとどまらず他の分野を見据えた柔軟な考え方が大切であると感じた。地域を動かすのはお金でもエネルギーでも政治家でもない。その地域に住む一人一人の行動が地域を動かすのだ。