江戸川大学社会学部ライフデザイン学科2年 池谷ひかる

 

今回は木原氏に「住民流助けあい起こし」という題名で地域福祉に関する貴重なお話を伺った。

木原氏が今回まず初めにおっしゃっていたことは、『今日の日本の介護は専門化されている。』ということだ。最近の福祉は、要介護者を介護するのが福祉士という専門家で、要介護者の実態を把握しておらず、本当のニーズも理解できていないそうだ。またボランティアも組織化してしまっていて、養護施設に入るのも当事者や家族がそこまで赴かないといけないなど、介護を受ける側がアクションを起こさなければならないのが現状だ。そこでボランティアや介護は専門家がするのではなく、一人の人間として行う・・・そうすることにより、当事者との介護に対して抱いている概念のズレを発見し、改善していくことができる、と木原氏はおっしゃっていた。

そこで木原氏は『住民支え合いマップ』というものを発案した。これはどの世帯にどのくらい介護が行き届いているか、またどの人とどの人が知り合いでいざという時に助けてくれる人がどのくらいいるのか、という事を実際の地図に線を引くことにより、地域の関係性をわかりやすく具現化した図のことである。これにより思いがけず介護が手薄になっている世帯や、地域の福祉を担う通称『世話焼きさん』を発見することができる。

また介護の本質を知るために大切なことは『助けられ上手になることだ』と木原氏は豪語された。ある調査によって、困っている人がいたとき頼まれたら関わる人が70%なのに対し、自分自身が困った時に助けを求められると答えた人はわずか、35%しかいないということが明らかになった。この調査の結果に基づくと、介護が必要な人も自分から助けを求められない・・・ということは介護が広がっていかないということにもつながってくる。そこで木原氏は、『福祉は「される人」が作る』という概念を推奨し、助けられ上手になることにより福祉の心を広げていく事を目指している。また、助けられ上手になる必要があるのは当事者だけでなく、介護する側もまたそれに当てはまる。介護を苦に要介護者に手をあげてしまったり、殺害してしまったりするなどの事件を削減するためだ。このような『助けられ上手』を増やしていくために『助けられ上手講座』を行い、福祉の営みで大事なのは助けられることだと訴えているそうだ。

このように、福祉とはただ一方的に行うのではなく、当事者の目線に立ち本当のニーズを発見することが大事だと木原氏はおっしゃっていた。木原氏のお話を伺った後、私の頭の中にふと祖母の顔が浮かんできた・・・。

私の実家には、私たち親子と父方の祖父母が同居している。そんな中、最近祖母は物忘れが激しくなったり足腰の不調を訴えたりすることから、家族で介護することが必要だと考えた。そこで、デイサービスへの参加を勧める、旅行の際に車いすを手配する、トイレ・お風呂をバリアフリーにするなど、祖母の為だと思い様々なことを家族総出で行ってきた。

そんな祖母とはこんなエピソードがある。私は夜遅くに帰宅してしまう日が多々あったのだが、そんな日には決まって祖母がいつも私の帰りを待ってくれていた。普段は寝ている時間なのに私のことを心配して遅くまで起きてくれていたのだ。しかしそんな祖母に私は「遅くまで起きているのは大変だろうから、先に寝ていてくれていいよ」と毎回言っていた。そうすると、気遣ってくれてありがとね、と笑いながら、でもどこか寂しそうな顔をして寝室へと向かっていった。そしてもう一つこんなエピソードもある。母が外出し夕食の支度を自分たちでしなければならなくなった時祖母は、自分がみんなの分のご飯を作る、そう提案してくれた。しかし私はそんな祖母に一言、「買い物や料理は疲れるだろうから、私たちはコンビニでご飯を買ってくるよ。家でゆっくりしていて」。そう言うと祖母は、そうかい、何もしてあげられなくてごめんね、と申し訳なさそうに何度も謝っていた。その時の祖母の寂しそうな顔を今でもはっきり覚えている。

祖母は元々面倒見が良く、困っている人がいると自ら進んで助けてあげるような性格である。木原氏のお話を伺って、そんな性格の祖母が求めていたものは何かと考えたとき、私は祖母に自分の福祉の概念を押し付けてしまっていたのではないか。私たちは祖母のためだと言って、知らず知らずの内に祖母の「自分がみんなの役に立ちたい」という気持ちを摘み取ってしまっていた。

私たち日本人は『福祉』と聞いて、どんな事を思うだろうか。例えば、福祉とは要介護者の為に様々な面倒を見てあげる事だとか、安全な生活をしてもらうために危ないものは避け不安材料のない環境で毎日を送ってもらう事だと考えるであろう。木原氏はこのような実話を教えてくださった。目が悪いのだが散歩をすることが何よりの楽しみだというおじいさんが、ある日転んでけがをしてしまった。そのためそのおじいさんの家族はおじいさんの為を思い施設に入れることを提案する。しかし、おじいさんは自分が転んでしまうような安全ではない環境にいるよりも、安全だが自分が散歩に行けない環境にいる方が辛いと訴えたという話だ。そしてこの話をして下さった後このようなとこをおっしゃっていた。『要介護者は安心や安全を求めているのではない、本当に必要としているのはもっと自分らしく豊かに生きることである』と。その言葉の意味がひしひしと私に伝わってきた。

『福祉』や『介護』という言葉は高齢化社会に突入した今日の日本において毎日のように耳にする言葉である。しかし今現在日本に住んでいる若者は間違った介護の概念を抱いてしまっているのではないか。その原因は前述にもある通り、福祉が専門化されてしまっていること、助けられ上手が少ないこと。それにより要介護者の本当のニーズを理解できずに、結果当事者の求めていないことを押し付けたり、プライドを傷つけたりしてしまうのだ。今回の講義を聞いて、福祉の本当の意味を理解することができたのではないかと思う。当事者の目線に立ち、本当に求めている事だけを手助けする・・・そのように感じることができたこの講義は私にとってとても価値のあるものであった。

木原さん、今回は貴重なお話ありがとうございました。