僕は人とかかわるのが苦手で、喧嘩なんかした事がなくて、まして相手は四人もいて、その四人とも見るからに喧嘩慣れしていそうで……。
本当は彼等を見るのさえ怖くて俯いてしまいたかったけど、目を離すとその隙に殴りかかられるんじゃないかと思うと、それさえ出来ない。
不意に、四人のうちの一人が一歩前に出た。
僕は一歩後退る。
残りの三人も少し近付いて来た。
彼等の間の距離はおよそ二メートル弱。
くるりと身を翻して駆けだせば逃げ切れるだろうか? 
僕はさっき通り過ぎて来た公園内の遊歩道を思い浮かべた。
あそこまで出れば、今追い詰められている木立ちの中の小道より人通りがあるはずだ。
でも、人通りがあったからって誰か助けてくれる人がいるだろうか? 
僕を助けてくれるには、四人を相手にしないといけない。
四人とも服装と髪型を見ればまともな人じゃないのはすぐわかる。
通りがかったおじさんが怒鳴り付けたぐらいじゃ絶対臆したりしないだろう。
それ以前に、そんな勇気のあるおじさんが偶然通りかかるわけない。
こんな事なら、公園の中を突っ切ったりせずに大通りを歩けば良かった。
夜の広い公園は治安が悪い事ぐらい、わかっていた筈なのに。
ましてこんな特に暗い小道なんて、いくら家までの直線コースだからって……。
四人組の不良は身を固くして立ち竦む僕をにやにやしながら見ている。
彼等は僕が遊歩道を外れて今いる小道に入って少し歩いた時、突然木立ちの間から現れて、行く手を阻んだ。
それからずっと、きっともう五分ぐらい、ただ気味悪く笑っているだけで何も言わない。
下手に刺激したらいけない気がして僕も何も言ってない。
僕は彼等を見据えたまま、ゆっくりと一歩後退した。
四人が獲物から目を離して何かを目配せし合っている間に、もう一歩後ろへ下がる。
緊張で背中が強張っている。
足が震えださないように、僕は爪先にぎゅっと力を入れた。
そして、一人が新しい煙草に火をつけて煙を吸い込み、それを残りの三人が見守っている隙に、僕はくるりと振り返り、思いっきり駆け出した。
「ひゅ――っ」
「追え、追えっ」
後ろで嘲るような奇声が上がり、彼等が追ってくる気配がした。
「ひゃっほ――」
「待て――」
狩りを楽しんでいるみたいに口々に叫びをあげ、大声で笑いながらついてくる。
その異常な興奮が伝わってきて、恐怖が高まった。
本当は悲鳴をあげてしまいそうだけれど、声を出したら最後、必死で走っている足が崩れ落ちてしまいそうで、ただ、ひたすら走った。
息があがる。心臓が苦しい。
遊歩道まではほんの少しの距離なのにまだ着かない。
こめかみが脈打って、頭が痛い。
 目の前の木立が開け、ぼんやりとした外灯と遊歩道が見えた瞬間、僕は叫んだ。
「助けて! 誰か……」
遊歩道には誰も通っていなかった。
追っ手の叫びと息遣いが、すぐ後ろに迫っている。
僕は荒い息で走りながら叫び続けた。
「助けて! 誰か助けて!」
後ろから伸びてきた手に右腕を掴まれて、バランスを崩した。
それでも振りほどいて走ろうとしたところを、今度は髪を掴まれて強く後ろへ引っ張られた。
首筋と頭に激痛が走った。
後ろ向きにこけそうになった反動で、膝ががくりと崩れる。
僕は足首を捻りながら、アスファルトの地面に横倒しになった。
痛い。足首と首が凄く痛い。
僕は歯を食いしばった。我慢していても涙が滲んできて、視界が少しぼやけた。
痛いという事しか考えられない。
首だけじゃなくて頭も、足首だけじゃなくて膝も痛い。
次の瞬間、背中を強く蹴りつけられた。
逃げなくちゃいけないと思っても、痛みで凍りついた体は起き上がる事さえ難しい。
今度は腹部に蹴りが入った。
息が詰まって、一瞬頭がぼんやりした。
咳が出て我に帰ると今度は吐き気に襲われて、口元を手で覆った。
喉が痙攣する。
僕を取り囲んで立っている四人が、甲高い声で笑いながら何かを言い合っているのが聞こえた。
痛い、苦しい、怖い。
彼等の蹴りが大腿と脇腹の辺りに何発も入る間、僕は体をエビの様に丸めて目をつぶり、両手で頭を庇っていた。
攻撃は、ふいに収まった。
四人は気味が悪い程げらげら笑いながら、言葉か叫びかわからないような声を発している。
目を開けると、すぐ目の前のアスファルトの地面に握り拳ぐらいの石ころ、その少し先に彼等のうちの誰かの足が見えた。
恐る恐る顔を上向けて四人の様子を窺うと、たった一本の煙草に全員が群がって回し吸いをしている。
僕はさっき目にした石を手に取り、握り締めた。
ごつごつした冷たい感触を掌で確かめる。
ゆっくりと足を動かしてみた。痛いけど動く。
そんな僕の動きに気付いたのか、四人のうちの一人、赤い髪の奴が近付いてきた。
僕は少しずつ息を吐きながら腹に力を入れた。
「ほら、お前にも吸わしてやるよ」
赤毛は煙草を手ににやにや笑いながら、僕に向かって少し屈んだ。
他の三人も近付いて来る。
「これを吸ったらハイになれるぜ」
「そうそう、気持ち良いことしよう」
僕は手の中の石をぎゅっと握りしめた。
赤毛が僕の口に煙草を銜えさせようと更に屈んだ時、石を持った右手で赤毛の顔を思いきり殴りつけた。
がつんという衝撃と同時に掌に痛みが走り、赤毛が後ろにひっくり返って尻もちをついた。
僕は右手に石を握ったまま、左手で体を支えて立ち上がった。
足首、膝、腹、首、背中、どこが痛いのかわからないぐらい体中が痛い。
倒れそうなぐらい痛いけど、必死で腹と足に力を入れて踏み止まる。
僕が殴りつけた赤毛はこめかみから血を流しながら座り込んだままだ。
一人がそれを介抱している。
残りの二人が凄味をきかせた顔つきで近付いてきた。
二人とも、さっきまでの異常な笑いが一転して、狂気めいた殺気に変わっている。
恐怖で震えだしそうな唇を噛み締めて、僕は二人を睨み返した。
口を開けたら悲鳴をあげてしまいそうで、何も言えない。
怖い。
汗をかいているのか、石を握り締めている右手がぬるぬるする。
二人が同時に、僕に掴みかかった。
必死で殴りつけようとした僕の右手はいとも簡単に封じられ、掌から石が落とされた。
四人の中で一番大きな男が僕を羽交い締めにした。
振りほどこうとしてもがくと、鳩尾に強い蹴りが入り、息が詰まった。
赤毛を介抱していた男が立ち上がり、僕の腹部を何度も殴った。
痛くて、息が詰まって、苦しくて、意識が遠のいていきそうになる。
前髪を強く引っ張られ、顔を上向かされて意識が戻った。
目を開けると、さっきの赤毛が唇を歪めて薄ら笑いを浮かべながら見下ろしていた。
僕は恐怖で竦み上がった。
もう、抵抗する気力が出て来ない。
*****
えっと・・・。
何ていうか・・・この1回目って、暴力シーンだけで・・。
主役の僕というのがジェジュンなので、つまり、一回目はジェジュンが殴られてるだけで終わっちゃった。
ほらほら、あったじゃありませんか、オフのジェジュンが自分そっくりのチンピラに間違えられて拉致されてボコボコ殴られて・・っていうドラマ。
あれをイメージして読んで頂ければ・・。
あのドラマ見て、何これ? 何でジェジュンがこんなに殴られなきゃいけないのよぉっ!と、
怒りを感じたものですが、同じことを自分がやってしまいました。
これ、作り物なんで、ジェジュンは演技してくれてるだけなんで、お間違いのないように。
「こんなに殴られる役なんて・・・ひどい」
ごめんね~~~~~ (>_<)
次回、OPEN YOUR HEART 2 へ続きます。(そりゃ、これで終わったらアカンよね)
2 はアメンバー限定になると思います。
ちょっとだけ問題のあるシーンが出てきそうなので。
っていうか、今回の暴力シーンも十分R18なんじゃ・・・?
これに懲りずに続きも読んでやって下さいませ~~~。

