それは、ただ単に、ゴミを捨てるのがめんどくさかっただけだ。









引っ越してきて三週間、なにをする気にもなれず、一日中テレビを観て過ごした。


なにも考えさせない無意味な時間の経過に身を任せることは癒やしである。






人生には、その道を変えるほどの苦悩が山ほどあるが、
有名高校に通う南シンバ18歳にとって、第一志望の大学に落第したことは、まさにその一つであった。

本人以上に周りからの期待が大きすぎたように思う。
親戚のおじとおばは、勉強や運動、シンバが同級生に比べ何かできないことがあると、本当の親ではない自分たちを責めた。
本当の親は物心つく前にこの世を去った。そう、聞かされている。

シンバは、義親からの重責と周りの期待に挟まれて生きてきた。



そんな周囲の視線から逃げ出すために引っ越しを決意した。

また来年頑張ればいい。一人になって集中して、なにが何でも合格してやる―――


そう思っていたはずなのに、引っ越しをすませたとたん無力感に襲われて、荷ほどきも中途半端に放り投げ、散らかった部屋の中、一日中ていたらくな生活を送り始めたのだ。

今までどれだけ自分が張りつめていたのか。
緊張の糸が、切れたのだ。


今までの自分がばからしくさえ思えてきた。
自分の夢を捨ててまで自分が目指してきたものはなんだったのだろう。
いつも、周囲の期待に沿えるいい子でいたかった。

(でも…)

今まで心の奥深く、封じていたワードを思い浮かべてシンバは思った。

(本当は……画家になりたかった。)


引っ越しをしてから、数日後のこと、不思議な夢を見るようになった。

美しくて儚くて、胸が苦しくなるような…

その時の情景をどうしても描きたくて、半ば自嘲するようにいつまでも大切に持っていた画材道具の入ったダンボールの封を、開けた。

・こはね
女の子
元気がよくて、泣かない強がりな性格
鈍くさいが根性がある


・しんば
男の子
優柔不断
なんでも器用にこなすが飽きっぽい

・とわ
男の子(?)中性的
神秘的な雰囲気がある
神出鬼没で癖のある、かなり歪んだ性格をしている



ジャンル・SF

突然家の中に小バエが出現して驚くことがあるが物事には因果律があり、小バエも突然生まれてくるものではない。

とわは、ゴミ袋の中に突然現れたが、それも奇跡ではない。


こはねとしんばは、出会う前から、夢の中でつながっていた。


薄皮を挟むようにしてお互いの観察しうるパラレルワールドを隔てていた。が、ある日その境目が割れた。

特殊な能力者である二人が、お互いの接触を望んだからである。


それは特異なことだった。

その得意な現象を介してとわは現れた。

とわは、こはねとしんばが生んだ、どのパラレルワールドからも独立した個体であり、夢の中を介さずともあらゆるワールドに通じることのできる影響力である。


ゆえに、世界の均衡を保つために、とわは[宇宙の意思]から排除されようとしていた。


結末
とわは消え、こはねとしんばは記憶を失う。

異なるワールド同士の二人が生んだ特異的に枝分かれした一つのワールドが消失したのである。

正確にいうと、とわは消えたのではなく、お互いのワールドで、こはねとして、しんばとして、魂が半分になった状態で出会うことになる。

現在のこはねとしんばも、実は元々は半分の魂であり、元は一つであった。二人は二人で一人の存在で、だからこそ同じ能力を持ち、そして引き寄せあっていた。
本当のことを言ってしまえば、魔女の呪いで、愛するものが消えてなくなってしまうのが…
いや、愛していたはずのものがそうでなかったと知るかもしれないことが恐ろしかったからだ。


自分の信じる世界、守りたい全てが壊れていくのが恐ろしい。
それゆえに男はこれまでの人生を、臆病にただ逃げるように生きてきた。

男は、嘘で塗り固められてた、脆く歪んだ世界でしか生きられなくなっていた。


そして、その世界が壊れるくらいなら、自ら壊してしまえとさえ思っていたし、事実そうやって生きてきたのだ。



突然、男ははっとした。
真に女を愛しているというのなら、目の前にいる女はなぜ消えないのだ。
やはり私は、女を愛してなんていなかったのだ。
そう思った瞬間、胸を切り裂かれるような痛みを感じた。
苦しかった。

しかし同時に、男の心に不思議な安らぎが訪れた。

「よかった。お前は、消えたりなんかしないのだ。」
男は微笑んで女の髪を撫でてやった。
女は不思議そうな顔をしていたが、男が心から幸せそうに笑うので、つられて幸せそうに微笑み返していた。

男は安心して、真実の言葉を口にした。


「愛しているよ。」

女は消えなかった。目に映るものはなにも変わらなかった。
ただ、男の嘘の世界(愛するもの)は消えていた。

女はよりいっそう幸せそうに笑った。
そして男の手を取ると少し大きくなった自らの腹の上に、その手を置き、女の手を重ねた。


そこには嘘のない、真実の愛が在った。