不能未遂は、刑法における重要な概念の一つであり、危険性を伴わない行為に対する特別な法的考慮を示すものです。この法理は、どの行為が処罰の対象となり、どの行為が刑事責任を負わないかを区別するための基準を、司法機関に与えています。

台湾の刑事司法実務においては、不能犯の認定基準が事件の最終的な判断結果に直接影響します。裁判官は、各事案の具体的状況を慎重に検討し、法の適正な適用を確保する必要があります。


(一)条文規定と法理的基礎

刑法第26条は次のように明確に規定しています。
「行為によって犯罪結果が発生せず、かつ危険性がない場合には、これを罰しない。」

この条文は、不能未遂の適用に関する明確な法的根拠を示しています。

さらに、最高法院100年度台上字第2604号刑事判決は、この概念を具体的に説明しています。同判決によれば、不能犯と認定されるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 行為者がすでに犯罪行為に着手していること

  • 当該行為によって犯罪結果が生じ得ないこと

  • 行為の全過程において危険性が存在しないこと

  • 客観的に観察しても実害がないこと

このような法理構成は、刑法における謙抑性の原則を体現するものです。たとえ行為者に犯罪の意思があったとしても、完全に無害な行為に対して刑罰を科すことはありません。


(二)通常の犯罪行為との本質的な違い

不能未遂は、一般的な犯罪行為とは本質的に異なります。通常の犯罪行為は、現実的な危険性を伴い、社会秩序に対して実質的な脅威をもたらす可能性があります。

これに対し、不能犯は、行為の開始時点から結果発生の可能性を欠いています。
例えば、玩具の銃を用いて強盗を試みる行為や、すでに死亡している者に対して殺害行為を行う場合などが典型例です。これらの行為は、主観的には犯罪意思を有しているものの、客観的には犯罪目的を達成することが不可能です。

法律がこのような行為を処罰しない理由としては、次の点が挙げられます。

  • 実質的な社会的危険性が存在しないこと

  • 被害者に現実の損害が生じないこと

  • 処罰しても実益に乏しいこと

  • 刑法が最後の手段であるという基本原則に合致すること

このような区別的取扱いにより、刑法の適用における合理性と公正性が確保され、過度な処罰を防ぐことができます。また、不能犯に関する判断基準が、現代刑法理論においてより精緻化・人間化してきている流れを示すものでもあります。