四季法律事務所の弁護士森本明宏です。
「弁護士はなぜ相手の名前を聞くのか」
法律事務所に相談予約などの電話をかけると、まず、ご相談者のお名前をうかがった後、必ず真っ先に紛争の相手方の名前や会社名を確認させていただきます。
なぜ??
「私の相談事なのに、なぜ相手の名前を確認するの?相手の名前や会社名が何か関係あるの?」とふと疑問に思われるでしょう。
これには理由があります。
いわゆる士業と呼ばれる仕事には、弁護士のほかに、司法書士、税理士、土地家屋調査士、行政書士、公認会計士、宅地建物取引士などいろいろな職種がありますが、弁護士特有の理由があるのです。
そのキーワードは、「利害関係」「利益相反」
簡単に一言で言いますと、弁護士は、紛争の両当事者から法律相談を受けたり、ご依頼を受けることが禁じられています。
少し考えてみれば明らかですが、弁護士が紛争の両当事者から相談を受けたり、依頼を受けたとき、両当事者から中立の立場でお仕事をすることは不可能です。
例えば、AさんがBさんにお金を貸したが返済がない貸金返還請求の紛争
Aさんと勤務先のB社との間の解雇をめぐる雇用関係の紛争
弁護士が双方からお話を伺えば、どちらの請求が通りそうで、証拠上どちらに分がありそうで、、そういうことは概ね見通しがつきます。
このとき、双方から話を聞いたり、依頼を受けたりしたら・・
Aさんにとって有利な事情、証拠は、Bさんにとって不利な事情、証拠。
その逆もまた然り。
「利害関係」「利益相反」とは、このように、一方当事者の利益が、反対当事者の利益を相対立(相反)することを言います。
このような事案で、弁護士が両方から話を聞いて、中立の立場で職務を行うことは不可能。職務の公正を疑わせる。
だから、弁護士は、まず相手の氏名、会社名などを聞き、相手方と現在あるいは過去において、事案に関与していないかどうかを確認するのです。
確認をさせていただいた結果、すでに相手からお話をうかがっていたりする場合、「利害関係」「利益相反」の事案にあたると判断し、ご相談、ご依頼自体をお断りしなければなりません。
この点、例えば、
●司法書士さんが不動産の売り買いの場面で、売り主さんからも買い主さんからも、双方から登記手続きの委任を受けることができること
●税理士さんが相続の場面において、相続人全員から依頼を受けて、相続税の申告をすることができること
など、他の士業専門家とは、仕事のやり方、できることについて、違う点があるのです。
弁護士は、事務所で仕事をしているとき、ご相談予約と思われるお電話に対する、事務局の「相手の方のお名前をご確認させてください」の声を一日に何度も聞くことになるのです。
今日は、弁護士の利益相反問題についてのお話でした。
四季法律事務所
森本明宏