「レストランにワインを持ち込む」
って、最近よく聞く話ですよね。
記念日のワインとか生まれ年のワインとか、本当に大切なワインが手元にあるとき、
それをちゃんとしたサーヴィスで、美味しいお料理と一緒に飲みたい!っていう気持ち、とてもよくわかります。
ただ、最近の「持ち込み」はそれだけじゃないみたい。
ワインを持ち込ませてくれるレストランを一生懸命探す人とか、
レストランに行くたびに、「ここ、ワインの持ち込みはいいんですか?」って聞く人とかがいて、
ワインスクールの中には、「持ち込みさせてくれる優しいレストランもあるから、そういうお店を探していいワインをどんどん飲みましょう!」みたいにけしかけているところもある模様。
理由はいろいろあると思いますが、いいワインを飲みたいけど、お店で頼むと高くつくし、家で飲んでも味気ない。
だったらいいワインを買って持ち寄って、レストランの美味しいお料理と一緒に楽しもう!というのがほとんどでしょう。
こういう人たちは、確かに立派な『ワインラバー』。
でも、『レストランラバー』かどうか?というと話は別ですね。
講座の中でも生徒さんたちに断言したことがありますが、
私は「ワイン持ち込み推奨派」じゃありません。
以前は、私もバリバリ推奨派でした。
自分も立派なワインラバーだったし、ワインの講師などをしていると、やっぱりいいワインをたくさん飲んでもらいたいし、
お店で飲もうとしたら手の出せないぐらいの価格になるのもわかっているし、
みんなで集まって、美味しいお料理とサービスでワインを語り合う楽しさもよくわかる。
お店にワインを持ち込むのって、そんなに悪いこと?
お料理だって注文するし、抜栓料も払うんだから構わないじゃない、って。
実のところ、自分でシェフとしてお店に立っていても、オーナーとしてお店を経営するようになっても、
その気持ちはあまり変わりませんでした。
でも、自分でお料理に合うワインをセレクトし、ソムリエとしてお店に立つようになって、
初めて持ち込みを嫌がるお店の気持ちがよくわかりました。
だって、ワインリストは私の商品なのです。作品なのです。
このお店でお客様が一番美味しいと思ってくれるだろうというワインを、数多のワインの中から、
自分なりに考えて考えて、選びぬいてあるのです。
何かテーマのあるワイン会だったり、うちでは到底管理できないような素晴らしいワインだったり、
特別な記念のワインだったりすれば話は別ですが、
似たような価格帯の似たようなワインを持ち込まれると、自分のセレクトをダメだしされたようで、
やっぱりちょっと悲しくなります。凹みます。
常連さんに何かしらの理由があって…というなら、こちらも快く受け入れられますが、
うちのワインリストを見たこともない人が急にワインを持参してこようもんなら、もはややる気喪失です。
丁寧にサーヴする気にもなりません。
ぶっちゃけ。
お店に来たら、お店の料理を楽しむのと同様に、お店のワインを楽しんでほしい。
そう思って、ソムリエは一生懸命ワインを選んでいるんです。
そして、選んだワインをいつ誰に出すのが一番いいだろうかって考えながら、
出番を待つワインたちを大切に大切に管理してるんです。
これってもう、売り上げ云々の話だけじゃないんです。気持ちです。愛情です。人ですから。
だからって、私も『持ち込み全否定!』ってわけじゃありません。
最初に言ったように、当初は推進派でしたから。持ち込みたい人の気持ちも痛いほどわかる。
そんなに悪気があって持ち込んでくるわけじゃないのも、よくわかる。
ただ、覚えておいてほしいのは、
「一生懸命働いているソムリエにとって、持ち込みは決して気分のいいものではない。」
ということ。
笑顔で「どうぞ」という時、ソムリエは「この人の頼みなら!」と、凹む気持ちをぐっと持ち上げて受け入れてくれているんだということ。
そう思うだけで、ちょっと相手への気遣いが生まれませんか?
逆にソムリエさんの喜ぶようないいワインを持っていってあげようと思ったり、一口残してあげようと思ったり、
最後はお店のワインも一本頼もうかななんて気になりませんか?
なんでもそうですが、「当たり前」とか「やってもらって当然」という意識は、
往々にして相手を傷つけることがあるものです。
要は、やっぱり気持ちの問題です。
何度もいいますが、人ですから。
そんなこと言ったって、海外じゃ「BYO」なんて素晴らしいシステムがあるじゃないか。
日本のレストランがケチすぎるんだ!っていう人もいますね。
BYOについては、「持ち込み大歓迎の斬新な制度があるらしい!」みたいに話がひろがってますが、
AUSやNZでは飲食店がアルコールを提供するために公的な許可と多額の費用がかかるので、
それならお客に持ち込んでもらったほうが効率がいい…という社会的な背景があるそうです。
だから、BYOがOKなお店では、ワインだけじゃなくてガチャガチャと雑多なアルコールを持ち込んで、
みんなでそれを広げて飲むんだと。
これはもう、日本でいう「ワインの持ち込み」とは全く話が違います。
まさに別話。ありえない。
ただ、日本にも似たような話はあると思います。
「ワインはよくわからないから、好きに持ち込んでいいよ!」っていうオーナーシェフのお店。
これはこれで、合理的だしアリだなあと思うのです。
だって、ソムリエ雇うの高いですから。
高い給料払ってソムリエ雇って、訳のわからんワインの在庫を抱えさせられたんじゃたまらない。
でも、ありきたりなワインを並べておいてもワイン好きなお客さんには来てもらえない。
だったら、お客さんに好きなワイン持ってきてもらって好きに飲んでもらったほうがいい。
うん。これはまさに、BYOのシステムにも通じる考え方。
お店側にも利用側にも、相互に利点がある。
考えようによっては、一番正しい持ち込みのあり方かもしれません。
ただしこれも、お店の人との事前のやり取りは絶対必要。
きちんと確認をして、お店に対して失礼のない範囲で持ち込みをするというのが前提です。
要は、大切なのはやっぱりコミュニケーションなんだなあと思うんです。
お客様へのおもてなしの心、そして、お店の方たちへの思いやりの心。
その二つが重なり合って初めて、お互いにいい時間を過ごすことができるんじゃないかなあと。
これは、ワイン持ち込みだけの話じゃないですよね。
しつこいようですが、やっぱり人ですから。気持ちです。
あ。
気がついたら、えらく長々と勝手なことを書き連ねちゃいましたね。
小さなレストランの、名もないソムリエールの独り言。
気に入らない方は受け流して頂いて、ちょっとでも納得してくれた方は記憶に留めて頂けたら嬉しいです♪