からだ・こころナビ2010.03.02
上皮シートで角膜を再生 47news
http://www.47news.jp/feature/medical/2010/03/post-273.html
負担少なく安全に
厚さ0・1ミリの培養上皮細胞シートを角膜の表面に張り付け、低下した視力を回復する治療法の臨床研究を、慶応大 眼科学教室の坪田一男教授らのグループが始めた。
同様な手法は欧米でも試みられているが、シート培養時にマウスの細胞を補助的に使うのが安全上の課題。慶応大グループは臨床応用例としては初めて、人の骨髄細胞を培養の補助に使い、安全性を向上させた。
昨年11月に慶応大病院 で1例目の治療を受けた20代男性は、0・06だった矯正視力が3カ月で0・8以上に回復。1年で計5人に実施する計画で、安全性や効果を確かめて新たな治療法としての確立を目指している。
角膜は黒目の部分にある直径約1センチの透明な組織で、複数の層からなる。表面にある上皮細胞は古くなるとはがれ落ちるが、周縁部にある幹細胞が新たな上皮細胞をつくり出して中央部に供給し、透明な状態を保つ。病気や事故のため幹細胞の機能が失われると、周囲の結膜が角膜に入り込んで白濁し、視力が低下することがある。
榛村重人・准教授によると、1例目の男性は劇症型の自己免疫疾患、スティーブンス・ジョンソン症候群。薬剤やウイルス感染が引き金になることが多く、全身の皮膚や粘膜に水疱やびらん(ただれ)が生じる人もいる。男性の場合は目に症状が起き、幹細胞が働かなくなった。
幹細胞を含む周縁部の移植も治療の選択肢だったが、男性は説明を受けて今回の治療法を選択した。上皮シートをフィブリンと呼ばれる生体のりで角膜に張り付ける手法で、縫合が不要なため体を傷つけず、肉体的負担が少ないのが利点だ。
グループは米国のアイバンクから取り寄せた角膜から、幹細胞を含む上皮細胞を取り出し、フィブリン膜の上で2週間程培養。できた直径12ミリの円形シートを男性の角膜に張り付けた。男性は手術後、患部を保護するコンタクトレンズを装着して退院。免疫抑制剤の投与が必要だが、問題なく日常生活ができるようになった。
ただ普及には課題もある。国内のアイバンクは角膜移植向けに整備されたため、上皮シート向けに提供を受けるのは不可能。海外からの提供を含め、年間2千例近い移植の多くでは角膜中央部だけが使われ、幹細胞を含む部分は捨てられる。榛村准教授は「より多くの患者を救うため、こうした組織を有効利用するための法的整備が必要だ」と話す。