佐藤卓「性の多様性って何?―高校生と学ぶ一年間」『歴史地理教育』915号、18~23ページ。

 

1.総合学習「人間の性と生」

 今回の論稿は、性をテーマにした総合学習を担当している現場の教員のレポートだ。佐藤はこの授業の大きな目標の1つに、性の多様性に気づき、世の中や自分の中の当たり前を問い直すとともに、自分自身の生き方を考えさせることであると述べている。

2.性の多様性は他人事じゃない

 まず1学期は、典型的な「男」「女」以外の性のあり方を考えていく授業を展開する。佐藤はここで、性のあり方は多様であり、一人ひとりが多様な性の一部をなしていることに気付かせることを念頭に置いている。しかし授業後の生徒の感想をみてみると、性の多様性をどこか他人事にしているように感じられて、授業のねらいを十分に達成することはできなかった。

3.生徒が自分自身の性の多様さに気づくとき

 2学期の「性交を学ぶ」授業をきっかけに、生徒たちは性の多様性を自分事として捉え始める。佐藤は科学的な知識を生徒に伝えることを重視し、コメントカードやアンケートなどを通して双方向のやり取りを大切にして、高校生が本当に知りたいことに少しでも応えられるように工夫をする。
 特に匿名でそれぞれの考えや思いを共有し、生徒は自分の考え以外にも同じクラスメイトが別の考えをもっていることに気づく。自分の思っていた性の当たり前が問い直されていく。そのなかで、生徒が心の中に実感を以て性の多様さを感じ取ってくれているのだとすれば、性交を真正面から扱った授業は、性の多様性の学びにおいて大きな意味があるはずだと、佐藤は述べる。

4.性の多様性を学ぶとは

 LGBTや性自認や性的指向などの「性のものさし」だけにスポットが当たる性の多様性の学びを、生徒たちがどう受け取るかということには気を付けなくてはならないと佐藤は述べる。このことは、かえって多様な性のあり方を他人事にし、自分自身の中の多様性をみえづらくしてしまう可能性を示唆する。性の多様性とは、本来的には性自認や性的思考のグラデーションにとどまらない、もっと幅広い意味を持っている。この授業を通して性の多様性を自身の中に見出した生徒がいたことには大きな意味があると、佐藤は述べる。