◎五十橿八桑枝の如く
この句は、現代の祝詞にもよく使われます。まず「五十橿」の意味については、「橿」を意味を表す字と考え、橿の木に限定してその意味を説く書物が多いと思います。
しかし、類語を見てみますと、
いかし御世(延喜式祝詞・大殿祭)*勢い盛んな
いかし穂 (延喜式祝詞・祈年祭)*勢い盛んな
いかし鉾 (舒明天皇即位前紀) *力強い
いかし日 (皇極天皇即位前紀) *立派でおごそかな
などと同じ「いかし」ではなかろうかと考えられます。「橿」は宛字である可能性があるわけです。また「八桑枝」も「たくさんの桑の枝」の意味とも考えられますが、賀茂真淵『祝詞考』の、「弥(や)木(く)栄(はえ)」説が穏当と思います。したがって、「いかしやくはへ」の意味は、「いよいよさかんにに木が茂り栄えること」(『岩波古語辞典』)と解釈するのがいいのではないかと考えております。
もちろん文字通り「多くの桑の枝のように」との解釈も否定できません。青木紀元氏『祝詞全評釈』は、この説を採用しておられます。なお、ヤクハヘに「ひこばえ」の意味はありません。