哀れな農夫の顔を砕く酒瓶の音。
山間の戦闘で弾かれる銃の音。
劇場で観た時、その鋭い金属的音に「痛い」と感じた。
この物語で恐るべき「悪役」として登場するビダル大尉だが
その単純ではない造形を描き出すのにギレルモ監督は
惜しげもなく時間を割いている。
軍雄の伝説として語られる父の逸話を即座に否定しながら
その形見の時計を大事に手入れし、常にその針の音を確かめる。
完璧な男そして軍人となるべく父より託された時計が
父そのものであるかのように。
それは聖書でもあり、呪縛でもある。
髭をあたる鏡の中の男の顔は父のものでもあるのか。
時計の音を聴きながら、剃刀で喉をかっ切る仕草は
死を前に恐れぬ証か或いは、憎悪の標しか。
自らの誇り高き呪縛の魂を永遠とする為に
こさえた息子にそれを渡そうとした男もまた
迷宮を彷徨うオフェリアであったのかも知れない。