児玉清『寝ても覚めても本の虫』を読了。

 そうです、あのアタック25の司会者・児玉さんの本です。

 私が、児玉さんが無類の本好きだったということを知ったのは、トム・クランシーの文庫本を読んでいたら、解説者として児玉さんが登場したとき。最初は、児玉さんの同姓同名の人かと思ったら、あの児玉さんだったのです。NHKのBSでブックレビューに出演しているのは、仕事として割り切ってやっているのかと思っていましたが、クランシー本の解説を読むと、無類の本好きであることが分かりました。

 以来、頭の片隅に、児玉さんのことがあったのですが、先日、この本をブックオフで見つけたので迷わず購入し、今回読んでみました。


 この本を読むと、本当に児玉さんが本の虫であることが分かります。海外の作品は、邦訳が出るのが待ち遠しく、原著を買って読んでしまうのですから。

 海外から本を買って帰って来る際のエピソードは特に面白いです。


 この本で紹介される作品の多くは、邦訳が入手可能ですし、紹介される中で、私が読んだことがあるものに関しては、どれも面白かった作品なので、おそらく全ての作品が面白いのだと思います。

 特に海外のエンターテイメント作品について、どれから読んだら良いのか分からない人に、この本は道標の本としてお勧めです。


寝ても覚めても本の虫 (新潮文庫)/児玉 清
¥580
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 (2008年6月30日記)
 唯川恵『だんだんあなたが遠くなる』を読了。

 最近、読み終えた本の中でも小難しいものばかり紹介しているので、ここは軽い本を。

 で、いきなり「変化球」として、恋愛小説をあげます。


 しかし、この作品、どこにでもあるような内容で、殊更、その内容を紹介する必要もないと思います。強いて、この本を読む必要すらないと思います。

 簡単にまとめれば、彼氏を、不倫の末にシングルマザーになる決意をした親友に奪われてしまう女性を書いたと言ったところでしょうか。

 以前、福田和也は、『作家の値うち』の中で、乃南アサを評する際に、テレビドラマのノベライズみたいな作品しか書いていないと言っていた記憶がありますが、この唯川作品も、その程度。否、それ以下でしょう。


 気になった点をひとつ。

 「将来は学者になりたくてさ、大学を卒業して院に進んだんだ。けど、いろいろと面倒なんだよ、あの世界は。それで結局、途中でリタイアした」

 「何が面倒なの?」

 「研究なんてものより、政治力が必要なんだ。どの教授の派閥につくかとか、次の学長が誰になるとか、そんなことばっかり注目されてさ。優秀な准教授が、ちょっと異端な言動をして辺鄙な大学に飛ばされるの見て、うんざりしたんだ」

 (本書140頁より引用)


 主人公の彼氏が話す場面ですが、これは、ステレオタイプにはまった発想から書かれた、誤解に満ちた発話だと思います。


 もちろん、政治力云々、学長に誰がなるのか等、話題になることがあるでしょう。しかし、異端の准教授を辺鄙な大学に送るなんて露骨なことは、今は、そうそうないでしょう。まぁ、ピラミッド構造の医学部とかなら、あるかもしれませんが、フラットな構造の文系の研究科などでは、教授の一存で、准教授をどうこうするなんて、相当難しいと思います。もし、そういうことになりそうでも、辺鄙な大学の場合、経営が厳しかったりするから、そう簡単に准教授を受け入れることは出来ないはず。

 この彼氏の場合、数学を予備校で教えているという設定なので、理系の研究者を目指していたのでしょうが、そうだとすると、准教授にまでなれた人は、もし嫌なら、世界中に戦いの場を移すことが可能なずです。それこそ、日本で異端なら、世界的には評価される可能性も高い。

 

 少なくとも、私の見聞する範囲内で、唯川が書くような単純な論理で物事は動いていません。

 おそらく想像だけで書いたのでしょうが、少しは取材くらいして書いて欲しいものです。

 小説だからって、テキトーに書き散らして良いと私は思いませんから。


だんだんあなたが遠くなる (新潮文庫)/唯川 恵
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 (2008年6月11日記)

 ジェフリー・アーチャー『プリズン・ストーリーズ』を読了。

 これは、収監中に集めた話を素材にまとめた短編集です。

 アーチャーらしく、ひねりを効かせて、最後まで読者を飽きさせない作品が詰め込まれていると思います。

 しかし、いくら日本より開放的で自由の多い刑務所事情であったとしても、やはり収監されていれば、作家としての腕も落ちるようで、以前と比較すると、キレの悪い作品が目立ちます。あくまで主観的な判断ですけどね。

 

 それにしても、アーチャーほどの作家でも、「絶版」化している本が多くなっていて残念です。

 主に彼の作品を日本で出版している新潮社さんには、よく考えて頂きたいです。


 もちろん、ブックオフにでも行けば、それなりに入手可能ですし、アマゾンでも中古は入手出来ますが、近い将来、入手困難になることは目に見えています。これほどの作家の作品を消滅させてしまうのは勿体無いと私は思います。


 簡単に入手可能な作品では、お勧めは「百万ドルをとり返せ!』です。


プリズン・ストーリーズ (新潮文庫)/ジェフリー アーチャー
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百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)/J・アーチャー
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 (2008年6月4日記)
 いしいしんじ『東京夜話』を読了。

 この前の記事で書いたアガンベンと同時進行で読んでいたので、冒頭に収録されている「真夜中の生ゴミ」が強く印象に残りました。

 この「真夜中の生ゴミ」は、世田谷区の清掃局の職員が、真夜中に、ミュージシャン、学生、劇団員やキャバクラ嬢を「生ゴミ」と見做し、回収していくという「ブラック」な内容。

 「とにかくね、無駄なことをしている奴は、みんなゴミなんです。そう決まってるんです。区の条例で」(本書18頁)という清掃隊の隊長の言葉が、何だか怖い。

 アガンベンの本でも、検討されるように、人間と動物の境目は決して自明ではなく、時に人間も「生ゴミ」として「回収」されかねない。

 いしいの小説が寓話ではなく、事実を示すノンフィクションに転じる日が来ないとも限らない。


東京夜話 (新潮文庫)/いしい しんじ
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 (2008年5月26日記)
軽い気持ちで読み始めたら止まらなくなって、桐野夏生『残虐記』を一気に読了。

 これは凄い作品だ。


 結局最後まで真相は藪の中。

 まさに芥川です。


 この本の巻末の解説では、谷崎との関連を解説者の斎藤環氏が指摘していましたが、私はもっと直接的に、芥川の『藪の中』を想起しました。


 少女時代の監禁体験を語る作家。その体験記の登場人物でもあり、体験記を置いて失踪した妻に代わり体験記を出版社に送る元検事の男。そして、監禁事件に関わった「犯人」。それぞれの視点から、監禁事件を語ることが可能で、実際に、作家と男の視点からは事件が描かかれているわけだが、作家の視点の物語には、「犯人」の視点も入れ込まれている。

 まさに三者の視点から一つの事件について異なった物語が語られる『藪の中』に類似します。


 こういう作品を読むと、ついつい謎解きをしてしまうのが人情。

 気になるところが何箇所かあったので、再読しましたが、私には「解答」が見えませんでした。


 何とも悩ましい作品を桐野さんは書いたものです。


残虐記 (新潮文庫)/桐野 夏生
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地獄変・偸盗 (新潮文庫)/芥川 龍之介
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 (2008年5月6日記)